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沼地・湿地帯:そこは、温室効果ガスを排出するだけの不毛の地か? (RTE-News, Jun 23, 2023)

A file image of peat bog surrounding Lough Fee, Co Galway

 湿地帯では、植物が死んでもその有機質は完全に腐敗しない。それが何世代にもわたって積もり積もると、「peat (ピート)」と呼ばれる泥炭層を形成する。もちろん、そこは多くの鳥類にとって大事なエサ場・繁殖地であり、「地球の生物多様性」の維持に欠かせない場所でもある。

 

 あるとき、ある人が、このピートに目をつけた。湿地帯の開墾事業と称し、巨額の資金を投入して、排水工事を施(ほどこ)し、農地や牧草地に変える計画だ。土地改良事業団体(政治家)は「土地の有効利用」、「農産物の生産」を高めるとの「ふれこみ」の他に、ピートから排出される「温室効果ガスCH4 の削減」という大義名分を考えだした。そして、世界各地の湿地帯で大規模な排水工事が行なわれ、地球上から多くのピートが消え、渡り鳥の姿も清流も、小川を泳ぎ回る魚影も消えた。

 

 さて、Irelandは、現在でも、その国土面積 (land area)の約21%をピートが占める、のどかで自然豊かな国だ。その Irelandの農業研究・助言サービス機関「Teagasc」が科学雑誌「Jounal of Environmental Managemen」に発表した論文が話題になっている。

 Dr Pat Tuohyらの研究チームは

 

・Government-led lad improvement campains:US政府主導による土地改良キャンペーン報告書

・Drainage studies:排水研究論文

 

に使用された「pre-internet record (報告書・研究論の公表前インターネットデータ)」を精査したところ、「EPA National Inventory (EPA国家インベントリ報告書)」には、重大な欠陥があることが明らかになったというのだ。

 

 そのUSの報告書によると、335,000ヘクタールのピートに排水工事を実施した結果、CO2換算で年間700万- 930万トンの温室効果ガス排出量が削減されたと記されている。

 しかし、Dr  Tuohyらが調査したところ、「drained peat-based glassland (排水工事済み牧草地)」のほとんどが、

 

・Not in fact be drained at all:事実上、まったく排水工事が行なわれていない

・Rewetted naturally through abandonment, or maintenance failure of drainage systems:(行なわれていても)敷地が放棄されたり、排水システムの不具合で、もと湿地に戻っていた

 

状態だった。このため、実際の温室効果ガスの排出削減量は、報告書に記載された数値の約50%に当たる、年間360万- 470万トンと大幅に少ないものとなる。

 

EPA National Inventory」報告書で提示された値は

 

・All 'managed' organic soils are uniformly artificially drained.

[ ピートの有機質土壌が完璧に管理され、一様かつ人工的に排水されている]

・100% of the drainage network is functional.

[ 排水ネットワークが100%機能している]

 

との仮定 (assumotion)のもとで算出されたものだ。しかし、その仮定が正しいことを裏づける「evidence (証拠)」はどこにも記されていない。

 

 湿地帯あるいはピートが「glassland agriculture (牧草地)」に改良されたとか、ピートが「in production (農産物の生産中)」と言っても、排水管理がずさんであれば、すぐに「natural rewetting(もとの湿地の状態)」に戻ってしまう。

 

 なお、現在、EUは「Nature Restoraion Legistation (自然再生法)」を検討中であり、2030年までにEUの国土面積 (land and sea)の少なくとも20%を自然再生に当て、2050年までに、その再生に必要な「ecosystem」を復活させる計画だ。

 

おわりに:洋の東西を問わず、土地開発は巨額な金と利権が渦巻く事業だ。当局は土地改良だ、干拓事業だ、田圃区画整理事業だと、次々に国税をつぎ込んだ。しかし、沼地が田んぼにかわり、それを割り当てられた農家でさえ、すぐに耕作放棄し、かっての沼地・湿地は草茫々の藪(やぶ)地に変わり果てた。どこの田舎の田圃でも、休耕田がめだつようになった。

 

     (写真は添付のRTE-Newsから引用) 

www.rte.ie