アイリッシュの伝統的な「お月さまポテト」:なぜ、ポテトが半茹で? (RTE-News, July 30, 2021)
その昔、お正月やおめでたい祝い事の際には、もち米(こめ)を炊いて、おこわやお餅にして食べた。その習慣は、いつ、どこで始まったのかは定かでない。しかし、うるち米のご飯と違い、おこわもお餅も、ずいぶんと腹持ちのする食べ物だった。子どもの頃は、少しお餅をかじっただけで、おなかがいっぱいになったものだ。
そんな腹持ちのいい食べ物が、Irelandにもあった。「parboiled potatoes (半茹でポテト)」だ。「potatoes with the moon (お月さま入りポテト)」、「potatoes with the bone (骨付きポテト)」とも呼ばれる。
これは Irelandの伝統食だ。ポテトを十分に加熱しないで、ポテトの芯が生煮えの状態で食べる。
かって、Irelandから UK、USに料理人として働きに出かけた人は、ポテトを調理するに当たって、習慣的に半茹でにしたものをテーブルに並べ、主人に大いに叱られたという。
そもそも、この「半茹でポテト」は、貧しい農村の食べ物だった。ポテトを十分に加熱してしまうと、食べた後、すぐに消化されてしまう。ところが、ポテトの芯の部分が生煮えの状態であると、消化時間が長くなる。ポテト以外、これといった食べものを口にできなかった日雇い労働者には、なくてはならないものだったのだ。
さらに、毎年の 7月は、農家にとって食糧が枯渇する時節だった。前年の秋に収穫したポテトは冬、春、初夏にかけて食べ尽くしてしまい、食糧の確保に ほとほと苦労した。7月から秋の収穫時期までの数ヶ月間は、「空腹と苦難 (hunger and distress)」の連続だった。この時期、ポテトの価格は急騰し、貧しい農家にとって、とても手が届かなかったという。
そこで、少しでも家族の消費するポテトの量を節約しようと工夫されたのが、腹持ちのする「半茹でポテト」だった。いわば、貧しい農家の苦肉の策だったのだ。
食習慣とは恐ろしいものだ。いったん、この「potatoes with the bone (骨付きポテト)」が、農村社会に根付くと、子どもたちまで、ポテトは「骨付き」が当たり前で、ポテトの芯に「お月さま」あるいは「骨」がないと、ダダをこねたという。
おわりに:「半茹でポテト」にはシャリシャリ感が残る。アンデス原産の「potatoes」が18世紀にヨーロッパに運ばれると、北半球の寒冷地に住んで、小麦が栽培できない地域に住む人々にとって救世主となった。しかし、あまりにも1種類の potatoes栽培に頼りすぎたため、疫病の黒斑病が蔓延し、Irelandでは「大飢饉 (1845- 1849)」を招く。このジャガイモ飢饉では、Ireland全土で約100万人が犠牲になった。
(写真は添付のRTE Newsから引用)