海岸侵食:家・土地、思い出の全てが瓦礫と化して海に沈むとき!RTE-News, Mar 20, 2023 M846m
はるか昔のこと、遠いギリシャの地に、こんな話があったという。
難破して海岸に打ち上げられた男が、やがて、意識を取り戻すと、海を罵(ののし)った。
『なんて、むごいことをする海だ。穏やかな海原(うなばら)に人を誘い、船を漕ぎ出させておいて、怒涛(どとう)に巻き込んではこれを転覆させ、大勢の人の命を奪うなんて......。』
すると突然、海面から空いっぱいに立ち上がり、その美しくも妖しい姿を見せたのは、一糸まとわぬ裸身の海の精。
『おお、海の男よ。私を責めないで。私は心優しい女。悪いのは風。風が私をそそのかし、心を狂わせ、暴れ回るように仕向けるのよ。』
[ The shipwrecked man and the sea: Aesop's Fables]
そんなことがあってから、時は、およそ2,600年も過ぎた。
地球の人口は約79億人に達し、海はその人間のゴミ捨て場と化して、汚れに汚れた。そればかりか、人間は地下から掘り出した石炭・石油を燃やし続け、大気を二酸化炭素で汚した。そのせいで、地球の気候も気温も狂いだし、氷河の氷が溶け出して、海水面が上昇し、かつての陸地や堤防の多くが、水面下に沈んだ。
こうして、海岸侵食 (coastal erosion)は、容赦なく海岸近くに暮らす人々の不動産と平和な生活を、子どもの頃の風景や思い出とともに完全に水の中に沈めてしまう。
Ireland西部の「Wexford coast (ウエックスフォード海岸)」は、延長約260kmにわたって美しい浜辺が続く景勝地だ。しかし、今、その約80%に当たるおよそ200kmの海岸線が侵食に脅かされている。
ウェックスフォード海岸の「Ballyhealy (バリーヘリー)」に居を構える Pierce夫妻は、自宅の前で立ち尽くし、為すすべもなく、ぼうぜんと海をながめる。かって、所有していた庭も畑地も全て波に流されて、道路さえ消えてしまったのだ。
海岸侵食を少しでも食いとめようと、数千ポンドを掛けて石垣を積み上げたものの、なんの役にも立たなかった。Mr Lal Pierceの自宅は200年以上前に建造されたもので、1934年、彼の父親が住みだした頃は、家の前に 2つの耕作地 (fields)が広がっていた。それが今では何もかも消えてしまい、ただ波が押し寄せるだけだ。
家の窓から海をながめて育った、夫妻の子どもと孫は、現在、アメリカに住んでいて、どきどき、この家に帰って来るという。しかし、やがて、この家も波にさらわれてしまうと、息子たちは帰る故郷(ふるさと)を失う。
政府の援助もあてにできず、できることといったら、ただ傷心に耐え、「(打ちのめされ(devastated 」ながらも、自分を失わないことか......。
いっしょうけんめい働いて、ここまで無事に生き抜き、年老いた二人。その二人の思い出も財産も全てが海の中に消えてしまうとは、なんと残酷なことか。
おわりに:海岸侵食を海のせいにしてはいけない。海を責めてはいけない。その原因と責任が誰にあるのかは、明々白々。
(写真は添付のRTE Newsから引用)