EU諸国で最長寿国はどこか?:これは難問中の難問! (RTE-News, Dec 22, 2022)
天下取りを狙った信長は、いばり屋で目立ちたがり屋だった。家来を集めては、好んで、幸若舞「敦盛」の一節
『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻の如くなり』
と歌い、舞ったと伝えられる。戦国の当時は、人生50年が普通だった。
しかし、健康寿命はともかく、今は平均寿命が80歳を超える時代だ。
ただし、池内 紀によれば、人生50年の考え方は、昔も今もそんなに変わらないという。『人生の楽しい時期はだいたい50年で終わるから』が、その理由だ。
ところで、人間はどれくらいまで生きられるのか。
ヒトの体細胞の分裂限界 (ヘイフリック限界) は50。すなわち人間の最大寿命は約120歳となる。
生物学的にはそうであっても、人間の寿命は生活・労働環境によって大きく左右される。江戸の昔、日本各地の鉱山で働く坑夫の平均寿命はたかだか30歳程度であった。さらに時代をさかのぼり、人類が樹の上から地上に降りて狩猟採集生活を始めた先祖(男)の平均寿命は、せいぜい20歳どまりであったと推定されるとか(司馬遼太郎:風塵抄)。
さて、Irelandの「The Department of Health (保険省)」は、2022年の人口動態調査の結果を「Key Trends 2022」として発表した。以下は、その要点。
1.life expectancy:平均寿命
2020年の調査データによると、Ireland国民の平均寿命は 82歳。これはEU諸国の中で最長を記録するものであった。性別ごとに2010年のデータに比較して示すと
2020 2010
women 84 83
men 81 79
となり、10年間で寿命が延びていて、しかも性別間の差が縮まっていることがわかる。この寿命の延びの背景には、大病を患って死亡する人が少なくなっていることがあると考えられている。
2.population:総人口
「The Central Statistics Office (人口統計局 CTO))の調査によると、Irelandの総人口は5,123,536 (2022年)。2016年の調査データに比べて 7.6%増であった。とくに65歳以上の人口の伸びが著しく、2013年に比べると 35%も増加していた。
CSOによると、人口増加の傾向は少なくとも今後20年間続き、移民 (migration)、出生率 (fertility rate)の変動を考慮しても、2040年には Irelandの総人口が約577万人に達すると見込まれている。
3.fertility rate:出生率
Irelandの出生率は過去10年間で最低だった。それでも EU中の順位では France, Romania, Czechia, Denmark, Swedenに次ぐ 6位を確保した。
4.Live birth:出生数
この10年間で Irelandの出生数は徐々に減少する傾向にある。原因は出生率の低下に依るところもあるが、近年、妊娠適齢の女性 (women in the main child-bearing age groups)の人口の減少が大きく影響しているためだ。したがって、今後10年は出生数の減少が続くと予想される。
5.Self-perceived health status:自分は健康と考える国民の割合
主観的健康度調査において、自分の健康状態は
・良好
・極めて良好
と回答した Irishの割合は82.1%であった。
その一方で、慢性疾患 (chronic illness)あるいは身体上になんらかのトラブル(health problems)を抱えていると回答した人は29%であった。これはEUの平均値を下回るものである。
ただし、低所得者層 (low-income earners)の健康度が低い点に、注意を払う必要があるとのこと。
6.Mortality rate:死亡率
過去10年間で Irelandの死亡率は15.8%も減少した。これを死亡原因別にみると、
・suicide (自殺) :−32.6%
・transport accidents (交通事故) :−54.7%
・pneumonia (肺炎) : −59.1%
・stroke (脳卒中) :−47.8%
7.Infant mortality:乳児死亡率 (生後12ヶ月以内)
乳児死亡率すなわち出生1,000人に対する死亡率は、2011年に比べて 14.3%減少し、EUの平均値以下となった。
おわりに:国民の平均寿命が延びたからと言って、必ずしも人々が幸せに暮らし、社会が平和で正しい方向に向かっているという証拠にはならない。どの世代の人も、健康で力いっぱい生きることができる社会が理想だ。そのような社会を目指すためには、個々人の健康チェック、人口動態調査もさることながら、政府・公的機関、社会構造の定期的なチェック・調査が必要なことは言うまでもない。
[参考] 池内紀:すごいトシヨリBOOK、毎日新聞出版、2017
(写真は添付のRTE Newsから引用)