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アイリッシュの収穫にまつわる独自の文化、儀式、慣習・伝統 (RTE-News, Aug 23, 2022)

Workers harvesting the flax to make linen in Co Down in 1948. Photo: Merlyn Severn/Picture Post/Hulton Archive/Getty Images

 かって、農作業の労力と言えば、せいぜい牛馬の力を借りる他に手立てがなかった時代、荒れ地を開墾して水路を築いて水を引き、稲を育てるには、一人の力ではどうしようもなかった。おのずと人は集落をつくって住み暮らし、互いに協力しあって農作業を進めた。春のごく限られた時期に、いっせいに種をまき、秋のごく限られた時期に急いで収穫を済ませる必要があった。

 その一連の作業を繰り返す中で、文化がはぐくまれ、作業の重要な要所要所に応じて儀式 (rituals)が生まれては、地域社会の文化・伝統 (cultures & traditions)として後世に伝えられた。

 

 そのような事情は、Irelandとて同じ。欧州の西の果てにあって、風が強く、寒さの厳しい土地ゆえに、その昔、古代ローマ人が「Hiberrnia (ヒベルニア)」、「冬の地」と呼んで、侵攻をためらった島だ。それでも、ケルト系のアイリッシュは互いに強いきずなを深め、わずかな耕地に「oats (からす麦)」、「barley (大麦)」、「wheat (小麦)」などを栽培して生き延びた。その厳しい農作業を中心とした暮らしの中で、独自の文化・伝統が醸(かも)し出されたのだ。

 

1.Gleaning Sunday:グリーニング・サンデー(落ち穂拾いの日曜日)

 Irelandでは穀物(crops)の収穫は、立秋に当たる「Lughnasa (ルーナサ)」の日の「Garland Sunday」から始まる。すると、その後、収穫に関連した数々の祭りが9月まで執り行われた。

 そして、穀物の収穫は、8月15日以降の最後の日曜日、「Domhanach Deascán」すなわち「Gleaning Sunday (落ち穂拾いの日曜日)」をもって終了した。この日は、その日までの刈取り作業で麦畑に「stray straws (落ちこぼれた麦の穂)」を家族総出で拾い集めた。落ち穂拾いの後は、ピクニックやおしゃべりに興じたり、麦わら細工 (harvest knots)を編んで、一日を過ごした。

 

 とにかく、少なくとも、8月24日の「The Feast of St Bartholomew the Apostle (聖バルトロマイの祭り)」までに、麦の刈り取りを終える必要があった。そうは言っても、天候不順が続いて麦の実りが遅れた年には、その祭りの当日であっても、農家は、せいぜい刈取り作業の準備するしか仕事がなかった。なお、その日、風が強くて、麦が地面になぎ倒されると、人々は聖バルトロマイをののしった。

 

 なお、農家は、どうにかして、8月の最終日曜日までには全ての収穫作業を終了する「the closure」に持ち込みたいと願った。

 

2.The last sheaf:最後のひと束(たば)

 さて、Irelandの広々とした麦畑の中で、最後に残したひと束 (the last sheaf」を刈り取る作業は、大切な儀式 (ritual) であった。

 言い伝えによると、その最後のひと束には「cailleach (カリアッハ)」と呼ばれる邪悪な鬼婆 (hag)か魔女 (witches)が取り憑いているとされ、これを刈り取らないと、次の年は飢饉に襲われると信じられた。

 最後のひと束を刈り取る前に、刈り手たちは、めいめいの鎌 (reaping hooks)をその麦の束に目がけて投げつけ、その腕まえを競った。

 こうして、最後の麦のひと束が刈り取られると、それは刈取り作業に当たった全員に分け与えられ、みな家に持ち帰って「harbest home feast (収穫を祝うホームパーテイ)」の飾りやお守りにした。

 

 さて、麦の収穫が無事に終わると、作業に協力してくれた仲間を自宅に招待して、「harvest home (収穫の宴)」が開かれた。お酒が振る舞われ、テンポの早いリズムに合わせて踊るアイリッシュ・ダンスの「reaping dance, or the head」に興じた。つどいの場所は、ときに農家の狭い台所であったり、納屋 (barns)であることもあった。

 そのとき、一般的な風習として、あの「cailleach (カリアッハ)」の穂が、その家の主婦におごそかに手渡され、その後は、料理がテーブルに振る舞われている間中、ずっとテーブルの上に置かれた。

 その収穫を祝う宴会の料理とは

・bacon

・cabbage

・potaptoes

・apples & bilberries

と、いたって質素だった。

 

 なお、地域によっては、ダンスの際に、いの一番に踊る踊り手が決まっていて、それは、「cailleach (カリアッハ)」の穂を身につけた、その家の娘だった。家の主人か長男に手を引かれて、ダンスに駆り出されては「reaping dance]」を踊る習慣があった。

 また、若い男女の間では、そのダンス会場で「harvest knots (麦わら細工)」のお守を互いに交換する習慣があり、贈られたお守りを、女性は髪に飾り付け、男性は襟の折り返しに差して楽しんだ。

 

 今日、麦の収穫作業は機械化されて、腰が痛くなる刈取り作業は楽になり、飢餓の恐れも消えた。しかし、同時に、収穫にまつわるたくさんの慣習・伝統が失われ、「cailleach (カリアッハ)」も「fairies」も人々の心から消え去った。

 

おわりに:つらい耕作作業を強いられた過去の農家の暮らしをさげすんだり、その風習をあざ笑ってはならない。今の社会は、過去の人々が累々と積み上げた文化、伝統の上に築かれているからだ。

               (写真は添付のRTE Newsから引用)

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