「草木に 心なし とは言えど、知恵に満ち」:驚くべき繁殖のワザ (RTE-News, July 27, 2022)
野山に生える草木は、何も言わない。ただ、日差しに喜び、雨を待つだけ。しかし、そこには、生き延びるための したたかな知恵と、敵との戦いに備えて磨き上げた戦略があった。
RTEは、Mr Leif Berswedenの著書「Where The Wildfolwer Grow」から7つのエピソードを取り上げて、以下に紹介する。
1.Holly can make its leaves spiky:ヒイラギの葉はどうしてギザギザ
クルスマス・リースのHolly (セイヨウヒイラギ)の学名は「Ilex aquifolium (イーレクス・アクイフォリウム)」。葉は鋭いトゲで武装している。このトゲは、できるだけシカに食べられないようにと進化した結果だ。ヒイラギが生長してシカの背丈よりも高くなると、木の上部の葉にはトゲがなくなるという。
2.Forget-me-nots changes colour:忘れな草の心変わり
忘れな草 (forget-me-nots)の青い花をよくよく観察すると、中心部が黄色いのと白いのがある。黄色の花は成熟のあかし。花の蜜を求めてやってくる昆虫は、この黄色の花に集まる。
花が受粉を終えると、中心部が白に変わる。これは、「もう、虫たちがやってきても私には密がない」とのサインだ。そこで、虫たちは、他の黄色の花を探し求めるため、忘れな草の受粉効率が上がるという仕掛けだ。
3.Sundews are killers:モウセンゴケは殺し屋
ジメジメしたピート(泥炭地)や高原の湿原に、赤みを帯びた小さな線香花火のようなコケが生息しているのを目にすることがある。そのシャモジ型の葉はたくさんのネバネバした触手で覆われている。触手の先端のツユはキラキラ輝いて、いかにも美味しそうだ。
しかし、ハエ・ブヨなどがその魔力に魅了されて近づくものなら、ひとたまりもない。すぐに葉っぱが閉じて、二度と空を駆け回ることができなくなる。モウセンゴケは昆虫を捕まえると、特殊な酵素でタンパク質を分解し、栄養分として吸収してしまう。食事が済むと、閉じていた葉は、何ごともなかったかのように再び開いて、次の虫を待ち構えるのだ。
4.Water soldiers submerge themseles to survive:したたかインベイダー戦略
水中で手足を伸ばしたスパイダーのように見える「water soldiers (ウォーター・ソルジャー、水兵)」。学名「Stratiotes aloides (ストラティオテス・アロイデス)」。主として水路や湖沼に生息する水生植物だ。葉のエッジは鋭く、他の植物の生息地に侵入し、これを侵略しては、その生態系を荒らすやっかいなインベーダーだ。
この植物の生きるワザは傑出している。夏場は水面に葉を広げているが、秋になり、水面一帯に氷が張る冬の訪れを察すると、葉の中の気泡が潰れ、気泡空間は水に置き換わって、植物全体が水中に沈み始める。これは潜水艦の潜航・浮上のメカニズムと同じ。こうして、冬の寒さをやり過ごすのだ。やがて春になると、気泡を含んだ若葉を茂らせて、その浮力で再び水面に姿を現わす。
5.Early spider orchids play the maiting game with bees:ランはペテン師
Early spider orchids (春咲きスパイダー・オーキッド)、学名「Ophrys sphegodes (オフリス・スフェゴデス)」の花の一部は「solidary bees (単性バチ)」のメスによく似た形と模様で、おまけにメスのフェロモンの匂いまで発生すると言うから驚きだ。このトリックにだまされ、本物とメスと思い込んでオスが花に飛び込んだら、背中に花粉を背負わされて、ハイ、さようなら。
6.Broomrapes are plant vampires:プラント・バンパイア
このバンパイア植物には葉がない。葉緑素 (chlorophyll)をつくる必要がないのだ。ただ枯れた草木のように草原にたたずむ。それもそのはず。この植物はマメ科 (とくにシロツメクサ)、キク科に寄生し、その養分を吸い取って生きるバンパイアのような存在。地面に種子が落ちても、すぐには発芽せず、近くに宿主 (host plants)が生長するまで、じっと待ち続ける。その後、徐々に宿主に向かって根を這わせて、養分を吸い取る。それも「生かさず、殺さず」のむごいやり方で。
7.Ivy-leaves Toadflax are upwardly mobile:壁をひたすら這い登るツタ植物
このツタ植物の近くに、壁があるものなら、壁はすぐにツタで埋め尽くされてしまう。紫と黄色の花をつけたツルは、日の光がよく当たる上を目指して、どんどん伸びる。しかし、やがて、その花が受粉すると、とたんに日陰を好むようになり、壁の隙間や割れ目に入り込んでは発芽を準備する。もちろん、新芽が出ると、再び、ツルは日光を求めて這い登る。
おわりに:植物の進化の過程で何があったのか。どうやって、こうも巧妙な戦略のワザを身につけたのか。この疑問に答えるには、あまりにも科学の進歩が遅れている。
(写真は添付のRTE Newsから引用)