毒グモのしぶとさ:遺伝子を変異させて世界中に広がる! (RTE-News, May 27, 2021)
芥川龍之介の「蜘蛛の糸」によれば、天国にもクモがいた。ある日、御釈迦様は一匹のクモを見つけると、キラキラと輝く そのクモの糸を、地獄の罪人の頭の上に、救いの道として静かに、たぐり降ろされた.......。
ところが、アフリカ大陸の西岸沖に浮かぶ「Canary Islands (カナリア諸島)」、ポルトガル沖の「Madeira (マデイラ諸島)」には、亜熱帯原産の毒グモ (benomous spiders)が生息していた。そのクモが、なぜか、風が強く、冬には厳寒の地となる Irelandに住み着き、国中にジワジワと広まっている (creeping up)。
毒グモの正体は「steatoda nobils (帰化クモ)」。Irelandでは「Noble False Widow spider (高貴なニセゴケグモ)」と奇妙な名前で呼ばれる。
NUI Galway (アイルランド国立大学ゴールウェイ) の Dr Michael Dugonらの研究によると、この毒グモは遺伝子を変異させて環境に適応するように進化した可能性があるという。(詳細な研究結果は「Clinical Toxicology」に発表。)
Irelandには、どうやらコンテナ船の積荷に隠れて忍び込んだと考えられる。UKで確認されたのが140年前。Irelandで最初に発見されたのが1990年代後期だった。
しかし、20年前までは、一般の人に ほとんど知られていなかったクモだ。それが、あっと言う間に全世界に広がり、今では UK、Irelandの都会あるいはその近辺にすっかり根付いてしまった。
ふつうのクモは人間に危害を加えない。軒先に大きなクモの巣を張って、蚊、ブヨ・ハエなどを食べてくれる女郎グモ。室内に侵入したダニ、ゴキブリ、アリなどを食べてくれるハエトリグモ。どれも、人間にとっては、むしろ益虫とされる。
Irelandには、「False Widow (帰化クモ) 」以外にも、大きな牙をもったクモが10種類ほど生息している。咬みつかれると、牙は肌を突き破る。しかし、この 5年間で、病院で手当を受けた数十件の患者は、全て、外来種の毒グモに咬みつかれていた。
それも、その毒グモがベッドあるいは衣類にもぐり込んで、知らないうちに咬み付かれるケースが全体の 88%だった。
Dr Dugonらの研究ーチームが、この毒グモの毒液 (venom)を分析したところ、約140種の毒素 (toxins)が検出され、そのうち111種は、北米原産の「Black Widow spider (ゴケグモ)」の毒素に一致した。このため、「False Widow」に咬まれると、「Black Widow」に咬まれたときと同じような症状が現われる。
毒グモに咬まれても、ほとんどは「mild outcome (軽度の症状)」で済む。しかし、「何もする気がなくなるほどの強烈な痛み (debiliotating pain)」を覚え、咬まれた部位が数日間腫れることもある。その上、
・tremors:震え
・malaise:気分が優れない
・persistant stiffness in limbs:しつこい手足のこわばり
・reduced or elevated blood pressure:血圧の上昇または下降
・nausea:吐き気
・impaired mobility:運動障害
を発症することがあり、まれに
・minor wounds:咬まれた部位に軽傷
・severe bacterial infections:重篤な細菌感染症
を招いて、入院を余儀なくされるケースもある。
謝辞:なお、この一文をまとめるに当たって、以下の優れた「article (記事)」も参照した。記して謝意を表したい。
EurecAlert! Science News, May 27, 2021
・New study confirms noble false widow spiders bites can results in hospitalization
おわりに:クモは決して「可愛い生き物」ではない。しかし、毒グモとて、つねに小鳥の目を気にして、ビクビクしながら生きているのだろう。防御・生存のためとは言え、生物は、ときに、とんでもない化学兵器を進化させるものだ。
(写真は添付のRTE Newsから引用)