アンデスのラマの抗体:どんな「flu ウイルス」も殺す秘密兵器 (BBC-Health, November 2, 2018)
南米のアンデス地方で飼育されるラマ (Llama)。ラマは、酸素の薄い高地の棲息に適するように進化したラクダ科の動物。インカの民は、ラマに荷物を運ばせ、その長い毛を織物に利用した。
そして、今、ラマの特異な免疫システムが医学界で注目されている。ラマがウイルスに感染した際に発揮するウイルス攻撃が、並外れて優れているためだ。
「ウイルス (viruses)」は、大きさが「細菌 (bacteria)」よりも一桁(けた)小さい。「インフルエンザ・ウイルス (flue viruses)」は約0.1μ (ミクロン)。そのウイルスは、表面から、まるでハリネズミ (hedgehogs)の毛のような、「スパイクタンパク質」と呼ばれる針状タンパク質を突き立てて、武装している。
ヒトがこのウイルスに感染すると、免疫システムが働いて、血液中のB細胞に「antibody 抗体 (免疫グロブリン)」をつくらせ、これによってウイルスを攻撃する。抗体はウイルスのスパイクタンパク質に結合して善戦するが、ウイルス本体にまで攻撃が届かず、敵の本陣は無傷に終わる。
その結果、ウイルスは、いとも簡単に「mutation (変異)」することができ、その姿を変えて抗体を無力化する。
これが、毎年、違ったタイプのインフルエンザ (influenza)が出現し、そのつど、人間がワクチンの開発に追い回される理由だ。
ところが、ラマの血液のB細胞で生み出される抗体は、ヒトの抗体よりも遙かに小さい。したがって、ラマの抗体は、ウイルス本体が、その周りに張りめぐらした槍(スパイクタンパク質)の間をかいくぐり、本陣を直接攻撃できる。これでは、さすがのウイルスも姿を変えて逃げ切れず、死滅に追いやられる。
USの「The Scripps Institute (スクリプス研究所)」の Ian Wilson教授らの研究グループは、複数の違ったタイプのインフルエンザ・ウイルスに感染させたラマの血液を採取し、これを処理した後、インフルエンザに苦しむマウスに注射したところ、ほぼ完璧な治療効果が認められたという。(研究内容の詳細は科学雑誌「Science」に発表。)
インフルエンザの予防ワクチンを一度受けると、どんなタイプのウイルスにも効果が継続する。これは、誰もが待ち望んだ夢のような「antibody therapy (抗体療法)」。専門家は、この治療法をインフルエンザ対策の「Holy Grail (究極の至宝)」と呼ぶ。
(写真は添付のBBC Newsから引用)