髪の毛の魔力、風習、災難!:アイルランドの怖い民間伝承 (RTE-News, Jun 28, 2023)
身だしなみの一つか、それとも他人との違いを際立たせる究極の技か。若ものは奇抜な髪型を好む。モヒカン刈りにモジャモジャパーマ、多色染めの頭の学生は、どの国の大学にもいた。
人は、頭の髪型で、目の前の人間の性格はもちろんのこと、職業、社会的地位、健康状態まで判断している。なんと、江戸時代には、男も女も身分によって髪型が決められていたというから、士農工商の身分制度は徹底したものだった。
なお、19世紀の Irelandでも、髪の色の違いによる偏見はひどかった。なぜか、赤毛(red hair)の人は「他人に不幸をもたらす」と信じられて、差別されたのだ。
モンゴメリー作「Ann of Green Gabless (赤毛のアン)」では、赤毛の女の子が馬車に揺られてエドワード島の村アボリーに着いたとき、マリラがとても驚いた。もちろん、男の子だと思っていたところに、女の子が現われたせいもあるが、もしかして、マリラは、古い Irelandの言い伝えを知っていたのかも知れない。
また、旧約聖書に登場するサムソン(Samson)の怪力の秘密が、その長い髪の毛にあったことは、Chiristiansなら誰でも知っていることだ。古くから、髪の毛には不思議な力がやどるとも、また、「supernatural forces (超自然のフォース)を受けやすいとも信じられていたのだ。
以下は、Mary Immaculatate College (メアリー・イマキュレイト大学)の Dr Clodagj Taitがまとめた「髪の毛にまつわる Irelandの民間伝承」。
1.The Curse of the Supernatural:超自然界の祟( たた)り (髪の毛が落ちる)
目の前に幽霊 (ghosts)や妖精 (fairies)が現われたときや、「improper behaviour in uncanny places (あやしげな場所で、不心得なことをする)と、髪の毛が抜け落ちるか、髪の毛が真っ白けになると信じられた。
1.1 Waterfordの男のはなし
ある Waterfordの男が、若い召使いを連れて、荒れ果てた古い教会の礼拝堂に忍び込み、そこにあった石を盗んで、牛小屋を建てた。次の日、その男が目を覚ますと、からだの骨々が痛みだし、召使いはといえば、その頭はつるっぱげ。まるで、墓場から出て来た骸骨の頭のようだった (comh maol le plaosg as an uaigh)」。
1.2 Couldaffの女のはなし
Culdaffに住むCassie Dohertyは、かるはずみにも、妖精の丘 (fairy hill)のブルーベリーを摘んでしまった。すると、その女の髪の毛は、すべて抜け落ちた。後になって、髪は再び生えたものの、もとのような髪の色には戻らなかったという。
2.Marginal properties of hair:髪の毛の魔力
髪の毛には魔力が備わっていると信じられ、民間療法や幸運のお守りとして使われた。
2.1 Laoisに伝わる民間療法
「posthumous childs (父親が亡くなった後で生まれた子ども)」の髪の毛をミルクに入れて煎じ、これを漉して飲むと「whooping cough (百日ぜき)」が治ると信じられた。
2−2 Cliftonに伝わる民間療法
Galway (ゴールウェイ)州の Cliftonには「Ribhe an Mamo」すなわち「The granny’s rib (of hair) [おばばの髪の毛]」と呼ばれる療法が伝わる。女の子が百日ぜきに罹ると、おばあちゃんから髪の毛 1本を分けてもらい、これを首に巻いた。これで治ると信じられたのだ。
2−3 Mayoに伝わる風習
Mayoの女性の「wedding dress」は、その友達が縫い上げる習わしであった。このとき、まだ、結婚が決まっていない女性は、自分も早く結婚できるようにと、自分の髪の毛を「wedding dress」の縫い目に編み込んだという。
3.The best time to cut hair:髪の毛はいつ切れば良いか
髪の毛は、いつでも切って良いものではなかった。それに、切った髪の毛の処分の仕方も決まっていた。
3.1 Musterに伝わる風習
Musterでは、「Monday (月曜日)」が「不吉な日 (an unlucky day)」とされ、この日、髪の毛を切ってはいけなかった。さらに、
・tailoring cloth:布地を仕立てる日
・slaughtering animals:家畜の屠殺日
・opening graves:埋葬日
なども不吉な日とされ、髪の毛を切ることが許されなかった。
3.2 Not cut during Lent:聖週間に髪を切ってはダメ
Irelandのほとんどの地域で、「聖週間 (during Lent)」に髪の毛を切ると、不幸になったり、髪の毛が抜けると信じられた。そこで、Cavan (カバン)州の住人は「Shrove Tuesday (告解火曜日)」に髪の毛を切った。
Leitrum, Sligo, Mayoでも、聖週間は、「懺悔の一形式 (a form of penance)」として、髪の毛も爪も切らないで過ごす習わしだった。そして、「The Thursday before Easter(イースターの前の木曜日)」を「Clipping or Trimming Thursday (爪切り・トリミングの木曜日)と定めて、みんなで一斉に髪の毛を切ったという。
とくに、この日に子どもの髪の毛を切ると、髪は丈夫になると信じられていた。
これらの風習は、聖母マリア (Mary)が、来たるべきイエスの死を恐れて髪の毛を掻きむしったことに由来するとも、イエスが十字架に掛けられる前に、髭と爪を切ってもらったことに由来するとも伝えられる。
4.Concealment of hair:切った髪の毛は隠しておく
髪の毛を暖炉の火に焚べたり、ゴミ箱に捨てることはご法度だった。
4.1 Rosecommonの風習
Rosecommonでは、切った髪の毛を火に焚べてはならないとされた。さもないと、「The Day of Judgement (最後の審判の日)」に、一度捨てた髪の毛を火の中から拾い集めなければならない羽目になると信じられた。
4.2 Stonetownの風習
Stonetownの親たちは、自分の子どもに「髪の毛は決して燃やしてはならない。それは、最後の審判の日まで肉体の一部だから。」と諭した。そして、切った髪の毛を丁寧に巻くか、紙に包んで家の溝や壁の中に隠すようにと教えた。こうすると、最後の審判の日に、すぐに自分の髪の毛を持ち出せるようにできるからが、その理由だった。
4−3 Linerickの風習
ところが、Linerrickでは、切った髪の毛を燃やしても良しとされた。だれもが「on the Last Day (最後の審判の日)」に世界中をあるき回って、自分の切った髪の毛を集めなければならないのなら、はじめから、集める量を少なくしておこうとの考えからか。
5.Swallows being after hair:ツバメは髪の毛を狙う
19世紀の故事研究家 Mr Wilam Hendersonの記述によると、「Irishは、小鳥が自分の髪の毛を持って行くのではと、常に気にしている人々だ」。頭が痛くなるのは、小鳥が巣作りするために人の髪の毛を抜くせいだ。
確かに、1930年代の Louth、Limerickの人々の間では、小鳥が人間の髪の毛を巣作りに利用し、このため、ヒナが孵(かえ)るまで頭痛が治らないと信じられていた。
とくに髪の毛を狙うのはツバメ (swallow)とされた。1860年代の「Church of Ireland Archbishop of Dublin (ダブリン大主教)」Richard Whaterlyは次のような言い伝えを書き残している。
” There is a certain hair on every one’s head, which if a swallow can pick off, the man is doomed to eternal perdition. Watch out for low-flying swallows: they may after your hair - or worse, your soul.”
[ どの人の髪の毛もツバメに狙われている。この鳥に髪の毛を抜かれると、永遠の破滅の運命をたどることになる。だから、低く飛び交うツバメには気をつけることだ。ツバメは髪の毛をねらい、さらに、悪いことに、魂まで持ち去ろうとしているのだから。]
おわりに:「ツバメが地面すれすれに飛ぶと、嵐や雨が近い」と聞いたことはあったが、それが「頭の髪の毛を狙っているため」だとは、初耳だ。なんだか、キリスト教の言い掛かりのように聞こえなくもないが......。
(写真は添付のRTE-Newsから引用)