USのアポロ計画(Aporo 11,12,17)で、月から地球に持ち帰った岩石、砂礫、粉塵、土壌コアなどの総量は約382kgにのぼる。その一部は研究に利用されたが、残りの大部分はこの約50年間、厳重に保管されてきた。
しかし、この度、Florida大学のAnna-Lisa Paul教授らの研究グループは、NASAから譲り受けた「lunar regolith(月面の表土)」を用いた植物の育成実験に着手し、その成果を「Communications Biology」に発表した。
Paul教授らが実験に使用した植物は、カラシナの仲間の「Arabiodopsis thaliana(シロイヌナズナ)」。その種子を容器内の月面の表土(regolith)にまいて、水を加え、毎日、液肥を与え続けた。植え付けた容器は「terriam boxes(テリウム・ボックス)」に入れ、「LED growing light(LED生育灯)」を照射したクリーンルームで20日間育てた。
なお、比較のために、地球の火山灰(volcanic ashes)でつくった模擬月面表土(lunar simulant)にも同じように種子を撒いて育てた。
すると、種子を撒いてから2日後には芽を出した。そして、6日までは栽培用土に本物の月面表土を使っても、火山灰を使っても、いずれにしても、その植物の生育状況は同じだった。
ところが、その後、月面の表土に植え付けた「Arabiodopsis」の根に勢いがなくなり、葉に赤茶けた斑点(spotted reddish pigmentation)が見られるようになった。
それでも、開花直前の20日まで、育成実験が続けられた。実験終了後に、月面表土に植え付けた「Arabiodopsis」のDNAとそれを転写したRNA(リボ核酸)を分析し、タンパク質の活性状況を調べた。
その結果、月面表土に植え付けた植物は、強いストレスに曝されていたことがわかったという。どうやら、土壌(regolith)に含まれる多量の塩分と重金属成分がストレスの原因と考えられるとか。
謝辞:この一文をまとめるに当たって、以下の優れたNASAの記事も参照した。記して謝意を表したい。
NASA: May 12, 2021
・Scientists Grow Plants in Lunar Soil
おわりに:残念ながら、表記のBBCの記事には詳細な生育環境の記載がない。LED光源の照度、生育時の湿度と温度も重要な栽培条件になると考えられる。