栄養素の豊富な「super-foodキヌア」:インカ帝国の「母なる穀物」 (BBC-Science & Environment, February 8, 2017)
「キヌア(quinoa)」は、不思議な穀物(grains)だ。
今から7,000年以上も昔に、キヌアはすでにアンデス山脈の中腹「Lake Titicaca (チチカカ湖)」周辺で栽培 (domesticated) されていた。そこは、ほぼ富士山の高さに匹敵する標高3,812mに位置し、冷たい風が吹き付ける厳しい環境だ。
インカ帝国(Inca emperor)は、「maize (トウモロコシ)」の生育には向かないアンデスの山々に、痩せ地でも育ち、塩分にも強く、寒冷な気候にも耐えるキヌアを広めた。インカでは「Mother grain (母なる穀物)」として、大切に育てられたという。
ところが、1533年インカの王を騙して殺し、その帝国を滅ぼしたスペイン人征服者(conquerors)は、インカ文明をこの世からことごとく抹殺するため、それまでインカ人が主食としていたキヌアの栽培を禁止し、代わりに、小麦(wheat)、大麦(barley)の植え付けを強制した。
この結果、今ではArgentina, Bolivia, Chili, Colombia, Ecuador, Peruなどの国々で、それも限られた高地でのみ、細々とキヌアが栽培、生産されているに過ぎない。
キヌアはヒユ科アカザ亜科に属する植物で、背丈が 1- 3mに生長し、直径 2mmほどの実をつける。その小さな実には、「starch (デンプン)」48%、「protein (たんぱく質)」18%、「unsaturated fat (不飽和脂肪酸)」4 - 9%の他、カルシウム、リン、鉄分、ビタミンB, E、カロチンなどを含む。
ただし、実を覆う外皮には「saponin (サポニン)」が含まれる。キヌアは、この「有毒な化合物 (toxic compounds)」をつくり出して、小鳥によって実が食べ尽くされないようにと、自らを進化させたのだ。
したがって、インカの民は、キヌアを食する前には、実を粉に挽いて外皮を飛ばし、さらに十分に水洗いする必要があった。美味しく食べるコツは、泡立ちが消えるまで水洗いを繰り返すことだという。ただし、市販のキヌアのほとんどは、すでにサポニン除去処理が施されている。
近年、キヌアは栄養のバランスの優れた、「gluten-free」の「Super-food」として注目されるようになった。
とくに、ヨーロッパ、USAの肥満 (obesity) を気にする人や美食家 (foodies) は「健康食品」、「ダイエット食品」として買いあさり、これがキヌアの品不足を招いて、この10年余りの間に、キヌアの市場価格は 3 倍に跳ね上がった。
なお、この度、「King Abdullah University of Science and Technology, KAUST (アブデュラ王立工科大学)」の Mark Tester 教授らの国際研究チームは、キヌアのゲノム解読に成功したと発表した。
今後、うまく行けば、サポニンを含まないキヌアの生産も夢ではないという。サポニンがなければ、脱穀・処理工程も簡素化されて市場価格が大幅に低下し、調理の手間も省ける。
さらに研究者らは、遺伝子情報を活用し、何とか、「遺伝子組替 (genetic modification」なしで、キヌアの生産性を高めたい考えだ。
これで、裕福な国の中産階級美食家に独占されている「Super-food」のキヌアが、富とは縁のない人々の口にも入るようになるだろうか。
(写真は添付のBBC Newsから引用。)