「心を失う病気」認知症:その驚くべき性差別! (BBC-Future, July 12, 2018)
ベートーベンは20代後半に「聴力」を失って、苦しんだ。しかし、もしも、人が「心」をなくしてしまったら.....。
「dementia (認知症)」の語源はラテン語の「dement」。「心を失う (out of one's mind)」という意味だ。認知症とは、記憶・認知機能に支障のある病気一般を指し、その中にはアルツハイマー病 (Alzheimer's)も含まれる。
世界で認知症に苦しんでいる人は、5,000万人以上。しかも患者数は、今後、確実に増加すると予想され、2030年には50%増の7,500万人、2050年には163%増の1億3,150万人に達すると推定されている。
認知症の「男女格差 (gender gap)」は激しい。なぜか、女性に多く発症するのだ。USでは、認知症患者の 2/3が女性だ。England, Wales, Australiaでも死亡原因のトップは、女性に限ると、心臓病を抜いて認知症。
それは、なぜなのか。考えられる原因として、以下の5項目が挙げられる。
1.老化に伴って「late-onset Alzheimer's (晩期発症型アルツハイマー病)」の発症リスクが高まる。女性は男性よりも長寿であるため、必然的に女性の認知症患者が多くなる。
2.「depression (うつ病)」、「multiple sclerosis (多発性硬化症)」、「surgical menopause (外科閉経)」、あるいは「pre-eclampsia (子癇前症)」などの「pregnancy complications (妊娠合併症)」はアルツハイマー病の発症につながる危険因子。これらの因子は、女性が高齢期に入ったときに「cognitive decline (認知低下)」を招く。
3.高齢者の女性は介護 (caregiving)を受けることが多い。介護を受けると、アルツハイマー病の発症リスクが高まる。
4.若い女性は、女性ホルモン「oestrogen (エストロゲン)」によって脳の健康が保護されている。しかし、ある年齢を過ぎると、エストロゲンの分泌が減少するため、高齢期の女性が、一旦、アルツハイマー病を発症すると、その症状は急速に悪化する。
5.女性と男性では「neurospsychological differences (神経心理学的な違い)」がある。アルツハイマー病の初期の段階の女性患者は、迷路図を使った「diagnostic exams (診断テスト)」で、「マイナス」と誤認判定され、適切な治療が遅れてしまう。
そもそも、アルツハイマー病はなんらかの原因で脳神経細胞が萎縮する病気だ。患者の脳には2種類の毒性タンパク質「アミドβタンパク質」、「アミドτタンパク質」が蓄積されることでも知られる。したがって、この2つのタンパク質が「biomarker (バイオマーカー)」となる。これを血液検査でチェックし、アルツハイマー病の進行度が把握される。しかし、血液中のβ、τタンパク質濃度が女性と男性で同じ値でも、なぜか、アルツハイマー病の症状は女性の方が重くなる。
なぜ、女性に認知症、アルツハイマー病が多く、また、これが急速に悪化するのか。研究はまだ始まったばかりだという。
(写真は添付のBBC Newsから引用)