やる気を出すのは:「ご褒美」、それとも「不安のプレッシャ」 (BBC-Health, November 28, 2018)
お酒の飲み過ぎやタバコで体を壊し、延(ひ)いては家庭を壊すことが分かっていても、それがやめられないのはどうしてか。誰も止めてくれないから、それとも、やめても誰も褒めてくれないから。車を運転しながら、タバコを吸っている若い女性は、結構多い。
ところが、妊娠した女性がタバコを吸うと、どうなるか。USの「Centers for Disease Control and Prevention (疾病 (しっぺい)管理・予防センターCDC)」によると、以下の項目のリスクが上がる。
・miscarriage:流産
・premature birth:早産
・low birth weight babies:低体重児
・birth defects (like a cleft palate):先天性欠損症(口唇口蓋裂など)
・sudden infant death syndrome:乳幼児突然死亡症候群
さらに、せっかく赤ちゃんが生まれても、その赤ちゃんがりっぱに成長する前に、母親が慢性肝疾患や肺ガンなどで、命を落とす不運も待ち受ける。いずれにせよ、社会にとって大変な損失と負担だけが残る。
そこで、UKの「Greater Manchester Health and Social Care (グレート・マンチェスター州保健・社会医療局)」では、妊娠した女性がタバコをやめると、そのご褒美に「shopping vouchers (買い物券)」を与えることにした。
ヒトは、何かをもらえると聞けば、「その気」になるものだろうか。
今、UKの「NHS (国民保健サービス)」が最も頭を痛めているのは、余りにも多い「肥満(obesity)」。肥満は2型糖尿病やガンの発症リスクを高める。体に余計な脂肪が付くのはファースト・フードにも原因があるが、運動不足も要因の一つだ。
では、どうやって運動が嫌いな人に、運動をする気にさせたらいいだろう。
非営利医療研究所「Rand Europe」が、保健会社「Vitality」の支援を受けて、UK、US、South Africaの住民40万人以上を対象にした2年間に及ぶ実験を行なった。
「運動をすると、ご褒美がもらえるAグループ」と「運動を継続しないと、せっかくのチャンスを失うBグループ」。この2つのグループのどちらが精力的な運動をするようになるか。
Aグループには Gym (ジム)のメンバーカードを配布し、Gymに備え付けの機械にカードを通すと、(運動する、しないにかかわらず)運動記録が保存されて、映画のチケットやコーヒー・ショップのサービス券がもらえる。
Bグループの約10万人には、運動記録が自動的に保存される「Apple watch」が廉価で貸し出され、決められた運動量以下にならない限り、実験終了後、その「smart watch」の支払い義務は免除される。つまり、定期的に運動をすれば、最新型の「wearable watch」は自分のものになるが、運動をサボると、せっかくのチャンスを失うことになる。
結果は、Bグループが圧倒的に運動量が多かった。どうやら、ヒトは「ご褒美」に吊られて何かをするときよりも、損をするかも知れないとのプレシャーがあった方が、「やる気 (incentive)」が出るようだ。
さて、結論。この研究結果から、妊婦にご褒美をやってまで「タバコをやめさせる」「incentive schema (インセンティブ・スキーム)」には、本当に、効果が上がっているのか、疑問に思う。赤ちゃんの健康、社会の医療体制に無関心・無頓着でわがままな女性には、無慈悲な強攻策を言うようだが、「タバコが原因の疾患治療」に対しては健康保険の対象から外す。これほど、「強烈なインセンティブ」はないだろう。
(写真は添付のBBC Newsから引用)