医療費削減に巨大薬品メーカーが抵抗:高等法院判決であえなく決着 (BBC-Health, September 21, 2018)
顔は笑っているが、その目には欺瞞と意地悪さがありあり。そんな人は昔からいた。
「目は口ほどに物を言う」、「目は心の鏡:典拠 [孟子、離婁・上]」と言い、英語では「The eyes are the window of the soul.」とのことわざがある。
ところが、人の心を読み解くのに欠かせない、肝心のその目が見えなく病気がある。「age-related macular degeneration (加齢黄斑変性AMD)」だ。このAMDには「dry type (萎縮型)」と「wet type (滲出型))」の2種があり、UKにおける「dry AMD」の罹患者数は約60 万人、「wet AMD」が約4万人。世界全体では約 1億7千万人がこの病気に苦しめられていると推定されている。
症状が悪化すると中心視野が失われ、読書が困難となる。その上、色彩がぼやけて、人の顔も見分けがつかなくなる。なんとも恐ろしい病気だ。
「wet AMD」の原因は、加齢に伴って、目の中に異常な新生血管が形成され、これが眼底の視細胞にダメージを与えるためと考えられている。この治療には、症状の進行を食い止めるために、次のような薬剤が眼球に注射される。
Medications (薬剤) Trade Name (商品名) Manufactures (製薬会社)
・Ranibzmab Lucentis Novartis
(ラニビズマブ) (ルセンティス) (ノバルティス)
・Afilbercept Eylea Bayer
(アフリベルセプト) (アイリーア) (バイエル)
・Bevacizumab Avastin Genentech
(ベバシブマブ) (アバスチン) (ジェネンテック)
問題は、その注射液の価格。1回の治療に必要な Lucentis注射液の価格は£561 (約82,500円)、また Eylea注射液は£800 (117,600円)と、それこそ「目の玉が飛び出る」くらい高価な薬だ。これに対して、Avastin注射液の価格は Lucentisのおよそ1/30の £28 (約4,100円)。
これまで、Avastinは「wet AMD」治療薬としてUSはじめ世界中で使用され、世界保健機関WHOもこれを推奨して来た。
ただし、残念ながらUKでは、Avastinはガンの治療薬としてのみ認可されていた。しかし、「North East England」地区の12の「NHS Commissioning Group (NHS委託グループ)」は、「wet AMD」の治療として、患者にとっても経済的負担が軽微なAvasitnを使用するようにと病院側に勧めた。
この事実を聞きつけた巨大製薬メーカー「Novartis (ノバルティス社)」と 「Bayer(バイエル社)」は、NHSの病院に勤務する医者に対して、安価なAvastinを使わずに、我が社の医薬品で治療するようにと圧力を掛け、さらに、NHSを相手に訴訟を起こして「法廷闘争 (legal battles)」に入った。
なお、「The National Institute for Health and Care Excellence (英国国立医療技術評価機構)」が、このAvastinについて詳細に調査した結果、「薬は安全で、薬効もLucentisやEyleaと変わりなし」の結論が出た。
そして、関係者の皆が固唾(かたず)の飲むなかで、「高等法院(The High Court of Justice)」の「landmark ruling (画期的な判決)」が下った。
勝ったのは「NHS側」。Avastinが「wet AMD」の治療薬として正式に認められたのだ。
「The Royal College of Ophthalmologists (英国王立眼科医医科大学)」学長の Mr Mike Burdonによると、この判決によって、今後、UKは年間 £500m (約753億円)の医療費の削減が期待できるという。この節約額は、毎年、病院が1つ建設できる金額に相当する。
裏を返すと、薬剤メーカーは、「wet AMD」の病気で苦しむ患者や国民から、それほどの巨額な収益を、毎年、むさぼっていたことになる。
謝辞:今回も、「解像度」を上げるため、以下の優れた「The Guardian」の記事を参照した。記して謝意を表したい。
・The Guardian:September 21, 2018
[ NHS wins legal fight against pharma firms over sight-loss drug ]
(写真は添付のBBC Newsから引用)