試験のカンニング:ウェールズの大学で追いつけず!(BBC-News, June 26, 2017)
不正 (malpractice) は、得てして、暗闇に隠れがちだ。姿を現わしても、目に見える部分は「the tip of an iceberg (氷山の一角)」の 9%より遙かに小さい。ひとまず、ここでは学生の不正行為、カンニング (cheating) に焦点を絞りたい。
学生たちのコンパの席では、ほとんど「マジッ」と「ウッソー」の 2語があれば、何とか会話が盛り上がる。公共放送のご機嫌取り番組とて、大して変わりはない。
使用される語彙が極めて限られていて、表現力が乏しい。これでは文脈の明晰な文章もレポート・論文も、とても書けまい。事情は、イギリスでも同じであろうか。
学生が授業に出ても、その目はスマートフォン上にある。時折、黒板をのぞき込んで、授業の進み具合を確かめると、スマートフォンで、板書の内容をパチリと写し取る。そんな光景も、まれではなくなった。
当然、試験になっても、頭の中には、授業で学び、自ら予習・復習した内容が入力されていない。つまり「からっぽ」だ。そもそも、授業で「思考」が欠如し、情報・知識はスマートフォンの中に入力されている。それに、試験問題の答えは、ネット上で探すと、幾らでも見つかる。
さて、「BBC Radio Wales」は、Wales の 8大学に対して「Freedom of Information (情報公開)」請求を行ない、2013年度から 2015年度の 3年間に限って、試験における学生の「alleged cheating (カンニング疑惑)」のデータを集計した。
その結果、試験中に「不正行為の疑いあり」として摘発された学生の数は、3年間で50 %も増えていることが判明した。
学生の中には、£100,000(約1,420万円)の借金(debt)に追い込められて、カンニングに走った学生もいた。
以下は、具体的なカンニング実態調査の結果だ。
University 不正疑惑 試験資格停止 学生数
・University of South Wales 1,144 2 30,000
・Cardiff Metropolitan University 565 12 10,500
・University of Wales Trinity Saint David 928 47 11,000
・Bangor University 36 4 10,000
・Cardiff University 713 3 30,000
・Swansea University 1,157 25 20,000
・Wrexham Glyndwr University 103 3 6,000
・Aberystwyth University 581 0 10,000
大学の試験で、カンニングが横行するのは、若ものの「copy & pasting」文化が背景にあるという。学生がスマートフォンを駆使して、何とか試験を乗り切ろうとする行動に対して、大学は、その情報技術 (technology)に「caught on the back foot (追いつけない)」でいるのだ。
「University of South Wales」の Dr Mike Reddy は次のように語る。
"In some ways we're still assessing in a very 19th Century way, 'write an essay,, write a report' and yet people coming up now have never lived without the internet."
[ 大学では今でも19世紀の風潮が残り、学生に「エッセイを書かせ」、「レポートを書かせ」て評価する方法が採用されている。しかし、大学に入ってくる若ものと言えば、インターネットなしで生活したことがない人ばかりだ。]
このような学生を相手に、講義を行なうことは難しくなっていると言う。
大学を優秀な成績で卒業したからと言って、その裏には「copy & pasting」のテクニックがあり、試験をすり抜ける「要領」だけが習得されては、学位の資格が台無しだ。
"Cheating of any kind is not acceptable and pose a threat to standards at our universities as well as individuals and employer's confidence in the validity of qualifications gained."
[ いかなるカンニングも許されるものではない。それは卒業生およびこれを採用した企業側の信頼を危うくし、大学のアカデミック基準を脅かすものだ。]
しかし、もっと悪いことは、大学の「academic integrity (アカデミックな誠実さ)」が汚れて、大学から、消え行くことだ。
Dr Mike Reddy は、学生の不正行為に対する大学の「注意義務 (duty of care)」を強調するが、学生の試験結果を採点する教育者の「誠実」と「責任」にも問題がある。学生の書いた解答用紙を長期間保管し、情報公開の求めに応じることのできる高校、大学が日本にはあるだろうか。
BBCが提起する教育問題は、日本にとっても「extremely seriously (極めて深刻だ)」。
(写真は添付のBBC Newsから引用。)