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痛みってどんなもの?:モルヒネと遺伝子治療薬と痛みの世界 (BBC-Future, April 27, 2017)

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 「痛いって感じたら、どんなに幸せ」。世の中には不思議な病気があるものだ。「先天性無痛症 (Congenital Insensitvity to Pain, CIP)」は、100人中数人の確率で発生し、世界中には数百万を数える人がこの病気で悩んでいる。熱湯を熱いとも感じないし、ナイフで傷を負っても痛くない。これは生命体にとって、とても危険な状態だ。

  CIPの子どもは無茶 (reckless) をし、「自己破壊的な行動 (self-destructive behaviour)」を繰り返すため、常に「打撲のあざ (siblings)」や傷が絶えない。そればかりが、ときに、とんでもない (ridiculous) ことや、自殺まで試みる。このため、CIP の子どもが大人に成長するのは極めてまれ。

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 あるパキスタンの少年が、地元で有名になった。路上の観客の前で、真っ赤に焼けた石炭の上をはだしで歩いたり、腕にナイフを刺して見せた。やんやの喝采を受けた大道芸人 (street performer) であったが、10歳そこそこで、屋根から飛び跳ね死んでしまった。

 さて、カナダの小さなバイオテク会社「Xenon Pharmaceuticals Inc.」が、この病気に「商機 (business opportunity) を懸け、痛み止め薬の開発を進めた。2000年に入って間もない頃のことだった。
 そしてついに、この遺伝性疾患 (genetic disorder) CIP の人は、遺伝子 SCNP9A が変異し、神経回路の「ナトリウムチャネル (sodium channel Nav1.7)」が機能していないこを突き止める。
 それならば、Nav1.7をブロックする薬が開発されるなら、炎症性痛覚 (inflammatory pain)、神経障害痛 (neuropathic pain)、腰痛 (lower back pain)、変形性関節症(osteoarthritis)などの「慢性疾患 (chronic syndromes)」が大幅に改善されるに違いない。
  今では、製薬大手の Merck、Amgen、Lily、Vertex、Biogen も研究開発に参入し、遺伝子治療薬の一番乗りを目指して鎬( しのぎ) を削っている。

 さらに、CIP の研究が進むなかで、遺伝子 PRDM12 が人の痛みに大きく関与していることも分かった。この遺伝子は「Pain neurons (感覚ニューロン)」のマスタースイッチの働きをしていると考えられている。慢性的な痛みは、遺伝子 PRDM12 が暴走している状態。そこで、製薬会社は、その暴走をなだめて「穏やかな状態 (normal acquiescent state)」にする薬を開発中だ。

 さて、人が痛みを感じるのは、感覚ニューロン内に潜むタンパク質の働きのせいだ。
感覚ニューロンは体中に張りめぐらされ、そこで受けた熱さや酸味など 6種の刺激が「脊髄 (spinal cord)」に信号で送られる。信号はさらに「中枢神経系 central nervous system)」に転送されて「痛い!」と感じるのだ。
 しかし、脳は、余りに強いストレスを受けると、「endorphins (エンドルフィン)」や「adrenaline (アドレナリン)」を分泌し、この「pain-signalling network (痛み信号ネットワーク)」を遮断する。

 morphine (モルヒネ)、heroin (ヒロイン)、tramadol (トラマドール)など鎮痛剤 (opiates)はまさにエンドロフィンに似た働きをする薬物。ただし、これらの鎮痛剤はどれも「中毒性の高揚感 (addictive 'high')」の副作用を引き起こす。
 モルヒネなどの薬物がもたらした結果は悲惨だ。USA では鎮痛剤の過剰摂取 (opioid overdoses) が原因で、毎日 91人が死亡している。2000年以来、命を落とした人は50万人以上に達するとか。
 アスピリン (aspirin) などの痛み止め薬 (painkillers)は、激しい痛みに効果がなく、長期間飲み続けると、胃腸が悪くなる副作用 (gastrointestinal side-ef+fects) も現われる。

 痛み止め薬は世界中で毎日 140億錠も飲まれている。製薬関係者にとっては巨大市場がそこにある。
 はたして、薬が効きすぎて、製薬会社が痛みを感じるような「痛み止め薬」がつくれるだろうか。
              (写真は添付のBBC Newsから引用。)

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