ガン全ゲノム塩基配列の解読に成功:ガンの種子、煽り役も解明! (BBC-Health, February 5, 2020)
一口でガン (cancers)と言っても、ガンには色々な顔があり、正体不明。孫子の兵法の基本は「汝 (なんじ)の敵を知れ」だった。敵を知らずして戦うことは無謀との教えだ。
ところが、医者は、本当はよく分からないガンにもかかわらず、患者に治療を施(ほどこ)すことが少なくなかったという。
そうは言っても、世界の第一線の医療関係者はこれまでも、ガンの正体を暴(あば)こうと、人の細胞に対してタンパク質を作るように指示する「coding regions of the genome (遺伝子コーディング領域)」に焦点を当てて、研究を進めて来た。努力することは、して来たのだ。
ただし、この研究手法では、ガンの全体像の、ほんの 1%を垣間見ただけに過ぎないという。つまり、ガンをゾウに例えるならば、ゾウの鼻先だけを覗いただけに過ぎない。これでは『群医、ゾウを撫でる』どころか、もっとひどい状態だ。
そこで、37ヶ国の専門家チームは「The Pan- Analysis of Whole Genomes Project (ガン種横断的全ゲノム解析プロジェクト)」を立ち上げ、10年以上の歳月を掛けて、残る99%のガンの姿を捉えることに努力を重ねた。そして、ついに、ガンの正体を遺伝子工学的に捉えることに成功した。
また、「carbon-dating method(放射性炭素年代測定)」を駆使して、ガンの経時変化を明らかにすることもできた。
その主な研究成果は次のとおり。
・遺伝子変異をガンに発展させる、いわばガンのアオリ役の「driver mutation (ドライバー遺伝子変異)」が存在する。その数は4 - 5ヶ。
・ただし、「driver mutation」が認められないガンも全体の 5%を占めるため、さらなる研究が必要。
・ガンには種子 (seeds)があり、それが数年から数十年間、ガン発症のチャンスを狙っている。とくに卵巣ガン、悪性脳腫瘍などは早期に種(たね)を形成している。
・早期遺伝子変異の約50%は、9ヶの遺伝子に集中している。
・ガンの全ゲノム塩基配列 (約2,700点)の解読に成功し、ガンを38種類に分類。
このプロジェクトに参加した Canda「The Ontario Institute for Cancer Research (オンタリオ ガン研究所)」の Dr Lincoln Steinによると、これまでは、ガン患者を診察しても、およそ 3人に 1人のガンについては、皆目見当も付かないガンだったという。この研究の成果を応用すれば、今後は「liquid biopsies (液体生検)で「driver mutation」などをチェックし、早期にガンの特性を把握することも可能だ。さらに、患者ごとに違うガンに対して、的確かつ精度の高い「tailered treatment (オーダーメイド治療)」も夢ではなくなった。
なお、UKでは、毎年、新たにガンと診断される患者数は363,000人(日本:推定1020,000人)、ガンによる死亡者数は165,000人 (日本:推定380,000人)と報告されている。
謝辞:この一文をまとめるに当たって、以下の優れた「The Guardian」の記事も参照した。記して謝意を表したい。
The Guardian: February 5, 2020
・Signs of cancer can appear long before diagnosis, study shows
(写真は添付のBBC Newsから引用)