次世代の癌 (ガン)治療:DNA解析とレーザー照準でガン退治 (BBC-Health, April 10, 2019)
森林に「松くい虫」が発生したからと言って、森全体に殺虫剤を大量に散布したら、森の植物・動物も大変な被害を受ける。また、森に「人食いグマ」が現われたからと言って、ところ構わず森に銃弾を浴びせたら、そこに生息する小動物も、いや人間さえ危険だ。それなのに、肝心のクマは岩陰に隠れて、かすり傷一つ負わないかも知れない。
そんなことをするのは、常識外。誰も、そんなことをするはずがないと、人は言うだろう。しかし、医学界の「ガン治療」では、これとほとんど変わらないことが実際に行なわれている。
すなわち、おなじみの「chemotherapy (化学療法)」が、それだ。強力な抗がん剤は、体のごく一部の部位に発生したガン腫瘍細胞を、確かに攻撃することはする。けれども、正常な細胞までも見境なく攻撃するため、体は相当なダメージを受ける。
たった1回の化学療法で心臓が悪くなって衰弱し、ガンそのものよりも、それが原因で死亡する例もあるとか。これでは、まさに本末転倒だ。
なんとか、レーザー照準器付きライフルのように、ガン腫瘍細胞、それもアキレス腱あるいはガン心臓部に狙いを定めた攻撃ができないものだろうか。
ガン (cancers)は、細胞の「突然変異 (mutations)」によって発生し、DNAに書き込まれた「instructions (設計図)」を勝手に変えて、正常な細胞を破壊し、自らの突然変異体を制御不可能なまでに増殖させる。それは、やがて体中に転移し、患者を死に追いやる。
「The Welcome Sanger Institute (ウェルカム・サンガー研究所)」のD Fiona Behanらの研究グループは、30種のガン腫瘍細胞を研究室で培養した。その数300個以上。さらに、そのガン腫瘍細胞を分子レベルでバラバラに分解し、ゲノム編集技術「Crisp」によって約20,000の遺伝子を取り出して、特性を解析した。
そして、ついに、ガンのアキレス腱に当たる6,000個の遺伝子を突き止めた。その全てを攻撃するわけにいかない。正常な細胞にとっても生き残るために欠かせない遺伝子も含まれていた。そこで、アキレス腱の中でも、がん細胞に特化した「vulnerabilities (脆弱ポイント)」の遺伝子を探しだし、600個を判別することができた。
その中には「Werner syndrome RecQ helicase (ウェルナー症候群 RecQ型DNAヘリカーゼ WRN)」も含まれていた。この WRNは、「colon cancers (結腸ガン)」、「stomach cancers (胃ガン)」の発症に、それぞれ約15%、28%関与している遺伝子。WRNを攻撃できる抗ガン剤は未だ開発されていない。
Dr Behanらの研究の「最終目標 (eventual aim)」は、ガンの種別ごとに、ガン腫瘍細胞の遺伝子組成とその脆弱ポイントを明確にした「Cancer Dependency Map)」を作成すること。
これが完成すれば、患者のガン腫瘍サンプルを分析することによって、ガンのアキレス腱あるいはその心臓部が明るみになり、正常な細胞を傷つけずに、的確な抗がん剤で攻撃できるようになる。「precision medicine (精密治療)」、「personalised cancer medicine (個別ガン治療)のレベルが格段に進歩するはずだ。
なお、Dr Behanらの研究の詳細は「Nature」に発表された。
(写真は添付のBBC Newsから引用)