お国ことばは、アイデンティティ:ケルトの祖先が話したゲール語 (RTE-News, September 27, 2019)
言葉は、その国、民族の歴史や思考・文化が詰まったアーカイブ。それは、人の顔の表情と同じように、内なる心の情動 (emotion)を瞬時に表現する。また、これほど、仲間意識 (identity)を高めるものは他にない。
古くからの友人に会って、互いに「お国ことば」で語り合うときの情景は、そのことを如実に示すものだ。
大国が小国を侵略し、これを制圧すると、真っ先に取り組むのは、被支配民族の言語の排斥だ。支配者の言語を先住民に強制し、子どもを親から引き離して、被支配民族の言語、文化・伝統が親から子どもに継承されないようにする。
かって、このやり方を徹底的に推し進めた国がオーストラリアだった。歴史上では英国、ロシア、中国なども、同じようなことをやっている。
AD 410年、古代ローマ軍がBritain島を去ると、その一帯にアングロ・サクソン人が大挙して押し寄せ、北方ゲルマン系の言葉を話す人々で溢れるようになる。やがて、その地で英語が確たる地位を占め、アイルランドなどは植民地化される。商業、行政、宗教、教育の全てが英語で進められると、世代間に文化・伝統の断絶が起こる。
そのアイルランド語すなわちゲール語 (Gaelic)に限ると、ケルト系の先祖の言葉を徹底的に打ちのめしたのは、TV・映画だ。子どもが映像から受ける影響は大きい。子どもたちは、US, UKのTV・映画の中で話される英語やそのアクセントを真似るようになる。
一方、社会の変化や技術革新の影響を受けて、言葉は変貌する。OxfordEnglish Dictionaryは、次のような新語も載せるようになった。
・gym bunny: 運動狂
・junk mailer: チラシ配り(屋)
・noob: パソコン・ビギナー
なお、Cambridge大学の Dr Sharon Arbuthnotらは、中世ゲール語を調査しているなかで、現在のアイルランド人がとっくに忘れていた言葉を見つけた。以下は、その一部だ。
・Bánbiad: 乳製品 (dairy products)
・crottach: ダイシャクシギ(Numenius arquata), 英語名(curlew)
・Rímaire: 暦(こよみ)作り師
・Slinnénacht :肩甲骨占い
・Féil Muire Geimrid : The Winter Feast of Mary
・Galar na placóide: 感染病 (咳の症状あり)
・Ngetal: ng. (ンケフル)
・Ó : ah!, Oh!
・Útluighe: 無法者 (outlaw)
・Foclóracht: 語彙 (vocabulary)
おわりに:チョコレート、バスに異論はない。しかし、マスコミでイチジクをフィグ、政府をガバーメントなどと呼ぶのは行き過ぎだ。言葉は大切にしたい。
(写真は添付のRTE Newsから引用)