薬剤耐性菌の軍団は:「トロイの木馬」戦略で殲滅(せんめつ)せよ! (BBC-Health, October 26, 2018)
その長い長い戦いは、スパルタの美しい王妃ヘレネを、トロイアの王子パリスが奪い取ったことから始まった。ギリシア軍とトロイア軍の双方は、総力を挙げて血みどろの戦いを続けたが、ギリシア軍はなかななトロイアの城を攻め落とすことができなかった。
そこで、オデュセウスが一計を案じ、あの有名な「Trojan horse (トロイの木馬)」で城の中に潜り込み、ついにトライア軍を陥落させる。ギリシア神話で伝えられるエピソードだ。
さて、近代医療が直面する課題の1つは「drug-resistant infections (薬剤耐性感染症)」。ヨーロッパでこの病気で死亡する患者は、毎年25,000人以上。2014年に発表された調査報告書によると、2050年には、抗生物質が効かないこの病気で死亡する人は、世界中で年間1,000万人を越えると推定されている。
ガードの堅い薬剤耐性菌の城門をどのように突破して、その心臓部を攻撃するか。
製薬メーカー「Shionogi Inc」のDr Simon Portsmouthらの研究チームは、「トロイの木馬」にヒントを得て、これまでとは全く違った抗生物質を開発した。
その医療戦略は次のとおり。
人間の体は「acute bacterial infection (急性細菌感染症)」に罹ると、免疫システムが働いて細菌が必要とする鉄分を減らし、細菌の増殖を阻止する。
すると、体内に侵入した細菌は、生き残りを賭けて必死に鉄分を求めて、さまよい始める。そこに、鉄分と抗生物質を一緒にした新薬「cefiderocol (セフィデロコル)」を投与すると、耐性菌は、新薬の鉄分成分が「トロイの木馬」とは気づかず、喜んで細胞内に取り込んでしまう。これで、抗生物質はやすやすと細菌を攻撃して死滅させることができるという。
この「cefiderocol (セフィデロコル)」を使って、腎臓感染症および尿路感染症の患者448名に対して臨床試験を実施したところ、結果は「safe and tolerable (薬は安全で効果も良好)」。ただし、その「effectiveness (薬効)」を確認するためには、さらに大規模な臨床試験が必要とされる。
なお、Dr Portsmouthらの研究結果は、医学雑誌「The Lancet Infectious Diseases Journal」に発表された。
謝辞:この一文をまとめるに当たって、明晰な以下の記事も参照した。記して謝意を表したい。
・INDEPENDENT:Octobr 26, 2018
[ Antibiotic 'Trojan horse' could defeat superbugs causing global medical crisis, trial finds]
(写真は添付のBBC Newsから引用)