Oxford大学の「抗うつ薬」診断:「効く薬」と「効かない薬」 (BBC-Health, February 22, 2018)
「うつ病 (depression)」は、つらく、悲しく、行き場を失う病気だ。何がつらく、悲しいかと言えば、この病気の発症メカニズムも治療法も未だ十分に解明されていない上に、信頼できる専門の医者が極めて少ないからだ。
思い余って、診断を受けても、ほとんどの医者は患者に対して高圧的で、患者が治療について詳しい説明を求めたり、疑問な点に食い下がると「ウチでは治療できないから、ヨソに行ってくれ」と言わんばかりの素振りをとる。診察時間を急かされ、質問を封じられ、おまけに『薬は指示されたとおりに飲むこと。薬の量を勝手に減らしたり、薬をやめると病気は重くなる』と釘を刺される。
これでは「うつ病」患者を、行き場のない袋小路に、完璧なまでに追い詰めてしまう。
さらに悪いことに、「抗うつ薬 (anti-depressants)」は副作用がきつい。吐き気、口の渇き、頭痛などに悩まされることも少なくない。その苦痛に耐えても、うつ病が完治すれば、まだマシだ。しかし、世の中には、薬効の不確かな抗うつ薬が出回っていて、専門家の間では、抗うつ薬に「効果 (effectiveness)」があるのか、ないのか、長い間の論争になっていた。
このような状況にあって、うつ病に苦しむ人は、涙が出るほど悔しい立場に置かれていたに違いない。
Oxford大学の Andrea Cipriani教授らの研究グループは、被験者数 116,400に至る522件の臨床試験データを「メタ分析 (meta-analysis)」手法で解析し、これまで臨床で処方されてきた数多くの抗うつ薬の実効果を検証した。抗うつ薬の中には、薬効が偽薬「placebos (プラシーボ)」以下の処方薬もあったという。
つまり、うつ病患者の一部は、ほとんど効かない薬に高額の医療費を請求され、苦しむ必要のない薬の副作用に痛み付けられて、2重の苦しみを背負わされてきたことになる。
その検証解析で明らかになった「the most effective (薬効が最も高い抗うつ薬)」と「the least effective (ほとんど効き目のない抗うつ薬)」は、次のとおり。
1.The most effective: Trade name
[効く抗うつ薬] [商品名]
・agomelatine(アゴメラチン) Valdoxan(パルドキサン)
・amitriptyline(アミトリプチリン) Toriputanoru(トリプタノール)
・escitalopram(エスタロプラム) Lexapro(レクサプロ)
・mirtazapine(ミルタザピン) Remeron(レメロン)
・paraxetine(パロキセチン) Paxil(パキシル)
2.The least effective: Trade name
[効かない抗うつ薬] [商品名]
・fluoxetine(フルオキセチン) Prozac(プロザック)
・fluvoxamine(フルボキサミン) Luvox(ルボックス)
・reboxetine(レボキセチン) Edronax(エドロナックス)
・trazodone(トラゾドン) Reslin(レスリン)
ただし、解析データは、主として、抗うつ薬の投与治療期間が8週間程度のうつ病患者に限られた。したがって、それ以上の長期にわたって抗うつ薬を使用する場合には、今回の結果がそのまま適用できない可能性もある。
また、うつ病は複雑だ。「teatment-resistant depression (治療の効かないうつ病)」や、Oxford大学の Cipriani教授らが薬効ありと判定した「21種の抗うつ薬」のどれもが効かないうつ病もあるという。
一方、治療効果があるからと言って、すぐに抗うつ薬を処方するわけがない。あくまで、薬の処方は、心理療法(認知行動療法)、磁気治療などの様々な治療法の 1つに過ぎない(患者の話も碌(ろ)くに聴かずに、薬をたくさん処方する医者には注意が必要)。
うつ病患者数はイギリスで約100万人と報告されている。 (日本の患者数は推定その数倍、抗うつ薬の市場取引額は数千億円。)
今、最も信頼できる医療診断は「AI 診断システム」と考えられる。ただし、残念ながら一般に公開されるまでには、まだまだ時間が掛かりそうだ。
なお、この研究結果の詳細は医学雑誌「The Lancet」に発表された。責任を感じる専門医には、ぜひ原文を精読してもらいたい。
老子は「天網恢々疎にして漏らさず」と言った。心の晴れない仕事を続けていると、いつか、必ずや天の裁きが下され、その人生・運命に綻 (ほころ) びが出るはずだ。
(写真は添付のBBC Newsから引用)