江戸の川柳に、こんなのがある。
・削(そ)いで取りますと 外科殿平気なり
他人の痛みなど気にせず、さっさと仕事を済まそうとする医者。その態度を痛烈に揶揄(やゆ)した一句だ。
どうやら、この世には、昔から「高慢と偏見 (Pride and Prejudice)」の挙動が見逃され、許容される特権階級があったようだ。医者もその仲間か。
今になっても、ときに、健康診断の結果を患者の目の前に示して、まるで本人が全能の神であるかのように審判を下す。
・「血糖値が高い」、「LDLコレステロールが高い」、「血圧が高い」。よって すぐに「薬を出して あげます」と。
いかにも、自分は、他人の身体のすみずみまで知り尽くし、かつ、病気は何であれ、その原因や発症メカニズムのすべてを熟知しているかのようにふるまう。その実、それは単なる虚勢に過ぎないのだが.....。
どうやら、この高慢で患者を見下す態度に、ほとほと辟易(へきえき)しているのは、筆者だけではなさそうだ。(参照:池内紀 [すごいトシヨリBOOK])
さて、その血液検査の分析表に「serum sodium levels (血清ナトリウム値SSL)」が記載されている。「総合分析結果報告書」と明記されているシートでは「ナトリウム(Na)」の項目欄だ。もちろん、これまで、この血清ナトリウムの検査結果について、医者から説明を受けたことは一度もない。医者の口癖は「とにかく忙しい」。それでも食い下がって、やっかいなことを尋ねるものなら、「嫌なら他 (の病院) に行ってくれ」。
ところが、「The National Heart, Lung and Blood Isntitute (アメリカ国立心肺血液研究所 NHLBI)」の Dr Natalia Dmitrievaらの研究チームは、この血清ナトリウムが「heart failure (心不全)」の発症リスクに深く関与していることを突き止めた。
Dr Dmitrievaらの研究チームは、さらに、被験者11,255人の、少なくとも 30年間にわたるカルテを分析した結果、血清ナトリウムは、心不全などの「慢性疾患 (chronic conditions)」にとどまらず、さまざまな身体の故障、老化 (biological ageing) 、寿命にまで影響を及ぼしていることが明らかになったのだ。(研究の詳細は「The eBioMeddicine Journal」に発表。)
ちなみに、血清ナトリウムSSLの正常範囲は 135- 146mEq/L。ただし、この範囲内にあるものの、SSLが 142mEq/Lを超える人は、
1) chronic diseases:慢性疾患
・heart failure (心不全)
・stroke (脳卒中)
・atrial fibrillation (心房細動)
・peripheral artery disease (末梢動脈疾患)
2) chronic lung disease:慢性肺疾患
3) diabetes:糖尿病
4) dimentia:認知症
の発症リスクが最大64%も高くなるという。
これに対して、血清ナトリウム値 SSLが 138−140mEq/Lの人は、「慢性疾患 (chronic disease)」の発症リスクが低いことが分かった。
けれども、なぜ、血清ナトリウムが高いと、慢性疾患の発症リスクが上がったり、老化が進んだり、もしくは早死する傾向にあるのか、つまり、因果関係 (causal effects)は不明。
この LHBIの研究結果が示唆するところは、
・”Proper hydration may slow down ageing and prolong a disease-free life.”
[ 適切な水分補給に気を配るなら、老化を遅らせ、かつ、病気とは無縁に人生を長く過ごせる可能性がある。]
もちろん、今後、この点を確かめるためには、大規模な臨床試験が必要だという。
おわりに:いにしえより、「不老不死 (eternal youth and immortality)」、「若返り(rejuvenation)」は人類の悲願だった。「若返りの水」が登場する むかし話も、数多く知られている。今から約2200年前、清の始皇帝さえ、不老不死の薬を探し求めた。しかし、現代医学の進歩により、どうやら、その霊薬・霊水の秘密が「単なる清水」にある可能性が浮上してきた。なんという皮肉か
なお、今は大寒のまっさかり。どうしても運動不足になりがちだ。それに、室内の温度も低い。これらの要因が血圧値を押し上げる。だから、血圧が高いからといって、すぐに医者や薬に頼らないこと。健康と病気の予防、それに医療に関する知識を深めることが大切。健康の一番の敵は、「無知」だ。
(写真は添付のRTE Newsから引用)