一度、自然界に放たれたら 永久に分解されることがなく、人体に取り込まれると、DDTや放射性ストロンチウムのようにどんどん蓄積、濃縮される物質。それがPFAS (有機フッ素化合物)だ。「forever chemicals (永久に分解されず、自然界に残り続ける化学物質) 」として知られている。とくに有害なのはPFDA (ペルフルオロオクタン酸)とPFOS (ペルフルオロオクタンスルホン酸)の 2種。
この有害化学物質は
・non-stick pans;焦げつかないフライパン(テフロン加工なべ)
・food packaging:食品包装
・carpets:カーペット
・furniture:家具類
・firefighting foam:消化泡
などに大量に使われてきた経緯がある。
人体には、主に飲料水に混入して取り込まれる。その結果
・high cholesterol:高コレステロール
・ulcerative colitis:潰瘍性大腸炎
・thyroid disease:慢性甲状腺炎
・testicular cancer:精巣腫瘍(睾丸ガン)
・kidney cancer:腎臓ガン
・pregnancy-induced hypertensions:妊娠高血圧症候群
などのリスクが高まるとされる。「The UK Drinking Water Inspectorate (英国飲料水検査機関)」の定める環境基準は100ng/L。
さて、BBCは Greenwich大学と共同で英国内45箇所の水道水について水質調査を実施した。すると、サンプル全体の46%に当たる25箇所の水道水からPFASが検出され、4箇所 (1%弱)の水道水に10ngを超えるPFASが含まれていた。
ただし、「The European Food Standards Agency (欧州食品安全期間EFSA)」の環境基準 2.2ng/Lを適用すると、サンプルの約50%は飲料水に適さないことになる。
Michigan大学の Rita Lock Klein教授によると、有害なPFASの環境基準は 1桁が望ましい。その根拠として、Harvard大学の Philippe Grandjean教授が指摘するのは、女性の体内に取り込まれたときの災難だ。
体内に濃縮されたPFASは母乳を通して、赤ちゃんの体にどんどん流れ、最終的には、母親の血液中のPFAS濃度の 10倍に達するようになる。
なお、一般に公表されているPFASの被害状況は、極めて少ない。しかし、1990年代、実際にジャージー (Jersey)の「The Chnnel Island (チャンネル諸島)」でPFAS汚染問題が浮上した。住民が飲水に使用している「St Ouen's Bay Aquifer (サントゥアン湾帯水層)」がPFASで汚染されていることが発覚したのだ。その後、PFASによる健康不調を訴える声が高まっている。
住民の一人で「citizen scientist (シティズン・サイエンティスト) 」になった Ms Sarah Simonによると、
・”I have an autoimmune disease, my father has kidney disease, and my mother has thyroid disease.”
[ 私は自己免疫疾患に罹り、父は腎臓ガン、母は慢性甲状腺炎を患っている。]
近所の人に聞いても、多くの男性が「kidney stones (腎臓結石)」に悩まされ、女性は「thyroid disease (慢性甲状腺炎)」に苦しめられているとの声が返ってくる。
UKでは、現在、PFOSとPFOAの使用は、いずれも厳しく制限されているが、それ以外のPFASについては野放しになっている。BBCの水道水調査では、18種類のPFASが検出されている。
おわりに:水俣病もイタイイタイ病も、はじめは、「原因が不明」と、患者の訴えのほとんどが当局に無視された。これによく似た社会の動きが、学校の「いじめ自殺」問題にもある。『自殺の直接の原因が「いじめ」とは断定できない』、この言葉が、学校あるいは教育関係者から何度発せられたことだろうか。人間は、できるだけ責任を逃れたいと欲し、当局は、できるだけやっかいな問題を避けようとする。なんとも悲しい人間の性(さが)だ。
(写真は添付のBBC-Newから引用)