アレルギー (allergy)とは、「Dublin Institue of Technology (ダブリン工科大学DIT)」の Dr Oria Cahillによると、
・特定の物質 (ある種の食べ物、花粉、ダスト、医薬品など) に対して極端に過敏 (hypersensitive)になる「免疫反応(immune response)」のこと。
人間の免疫システムには、体内に侵入した細菌・ウイルスを認識し、抗体「免疫グロブリン E」によって侵入者を攻撃しては、感染から身を守ろうとする働きがある。
しかし、とくに免疫システムが脆弱なとき、この攻撃が失敗に終わることもある。すると、今度は、危険とは無縁なタンパク質を侵入者と勘違いして、これを攻撃する。
これが食物アレルギーの発症メカニズムだ。
「たかが、アレルギー」との軽視、油断は禁物。ときに「anaphalaxis (アナフィラキシー)」と呼ばれるショック症状を起こし、呼吸困難、失神、血圧の急低下などを招くことがあるからだ。こうなったら、アドレナリン筋肉注射を打って直ちに手当しないと、20− 30分で死亡するリスクが高くなると言うから恐ろしい。
さて、過去10年間で、世界の食物アレルギー患者は1.5倍に増え、その数約2億5千万人 (2018年統計)。また、アナフィラキシーショックで入院する患者は7倍に膨れ上がった。
成人の約 3%、子どもの約 6%が食物アレルギーに苦しんでいると推定されている。
世界のアレルギー患者は、食物アレルギーの他に、アレルギー性喘息に苦しむ人約3億3,900万人 (2018年)、アレルギー性鼻炎に悩まされている人約 4億人 (2018年)と、膨大な患者数にのぼる。
なぜ、これほどまでに、アレルギー患者が世界中で急増したのか。Dr Cahillは、これまでに学術論文等に発表された 6つの「仮説(hypthesis)」を紹介している。
1.Hygiene hypothesis:衛生仮説
これは、1989年, David P. Strachan教授が提唱した仮説。アレルギー性鼻炎の子どもは大家族に少ないことを発見した。このことから、アレルギーの原因は、現代人の生活が余りにも清潔になり過ぎたことにあると結論づける。とくに、一人っ子は清潔になりすぎて、アレルギーになりやすいそうだ。
2.Farm effect:農場効果 仮説
Dr. Erica Von Mutiusが唱えた説。昔ながらの生活スタイルを続けるアーミッシュ (Amish)、酪農家 (dairy farmers)、都会人 (city dwellers) の三者のアレルギー疾患を分析したところ、アーミッシュの間には、都会に住む人に比べて、アレルギー患者が少ないことを発見した。
Armishの生活は極めてシンプル。電気も化学薬品もいっさい使わない。赤ちゃんがハイハイする頃になると、動物に囲まれて育ち、子どもたちが飲む牛乳も、殺菌処理しない生乳だ。馬小屋や家の中は、多種多様な微生物で満ちている。このような環境が、子どもの免疫システムを調整、強化しているとみる。
3.Microbiome:腸内微生物叢 仮説
腸内の微生物叢で悪玉菌と善玉菌のバランスが崩れ、悪玉菌が優勢になると、「腸内毒素症 (dysbiosis)」を発症する。これは、慢性的な炎症性皮膚・腸疾患、自己免疫異常 (autoimmune disorders)につながる。
これまでの研究によると、微生物叢内で善玉菌が増えると、「anti-inflammatory molecules (抗炎症分子)」が生成され、アレルギーの発症も抑えられることが分かっている。
また、「Caesarean section (帝王切開)」で生まれた子どもは「natural childbirth (自然分娩)」で生まれた子どもに比べて、皮膚細菌(skin bacteria)、空中浮遊微生物 (airbone organisms)を体内に取り込みやすく、これが悪玉菌となって、アレルギー疾患の発症リスクを高めるという。
(なお、腸内微生物叢の善玉菌を増やすためには、ヨーグルト、ぬか漬けなどの発酵食品をを積極的に食べることだ。)
4.Genetic factors:遺伝子要因 仮説
両親ともアレルギー体質であれば、その子どもがアレルギー体質になる確率は 75%。両親のどちらかだけがアレルギー体質であれば、子どもがアレルギーになる確率は 50%に低下する。
なお、赤ちゃんが生後4ヶ月で牛乳、タマゴ、ピーナッツ、小麦などに晒されるチャンスに会うと、その後、その食品に対する食物アレルギーを示さなくなるとの研究もある。
5.Process Food:加工食品 仮説
1980年代の「massive recession (大不況)」時代に、手軽で安価な加工食品が一般家庭に普及した。これが「アレルギー疾患」の増加につながったとみる説だ。確かに、ピーナツは、焙煎すると、その「allergenicity (アレルゲン性)」が高まる。
6.Vitamin D:ビタミンD 仮説
ビタミンD、日光浴は、免疫システムを強化し、「anti-inflammatory (抗炎症性)」を高める。
とくに、子どものときに、ビタミンDを十分に摂取することが大切だ。成長して、アレルゲンに負けない丈夫な体になる。なお、ビタミンD欠乏症は、アレルギー疾患を招くことが知られている。
さて、それでは、食物アレルギーの治療法はあるのか。残念ながら、食物アレルギーに関しては治療法は存在しない。一方、アレルギー性喘息やアレルギー性鼻炎の症状に対しては、有効な治療薬がある。
ただし、食物アレルギー患者に「desensitisation (減感)」処置法が試みられている。これは、少しずつアレルゲンを与えて、免疫システムに慣れてもらい、やがて、これに反応しないようにする方法だ。
おわりに:アレルギー疾患医療に限らず、現代の「医療」に欠けているものがある。「病気はなぜ発症し、どうすれば、病気を予防できるか」の周知徹底だ。医療関係者は治療に振り回されて、あるいは金儲けに奔走し、医療の本質を見失っている。医療の根本は「病気の予防」にある。「Preventive Medicine (予防医学)」を重視している医科系大学、病院は、極めて少ない。
(写真は添付のRTE Newsから引用)