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植民地に頼れないUKの農業:農地の生産性が危機的状況! (BBC-Science & Environment, March 16, 2020)

Crops

 およそ一万年前、人類がなぜ農耕を始めたのかは、定かでない。しかし、住み慣れた土地に暮らし、穀物を育て、安定した食糧を確保できることは、何よりもありがたかったに違いない。

 「agriculture (農業)」の語源は、ラテン語「agricultura [cultivation of land (耕作)]の意」。これに対して、「farming (農業)」の「firm」はラテン語「firma (fixed payment)」に由来し、小作人が地主に支払う借地代を意味した。

 つまり、古代ローマ帝国の時代から近代まで、農民と言っても、そのほとんどは、自分の土地を持たない小作人だったことが分かる。

 日本でも、農民(百姓)とは、「士農工商」の身分制度が確立した江戸時代、身分は武士の次にありながら、その実、どん底の生活を余儀なくされた民だった。

 今、どこの国であっても、農業、農耕、園芸などと、色々と呼び名を変えたところで、若ものの関心を強く惹きつける働き場ではなくなった。

 さらに、UKの農業には暗い過去がある。

 かって、ヨーロッパ人が「The New World (新世界)」と称したアメリカ大陸。銃で武装したヨーロッパ人(主にイギリス人)が、その広大な土地を「植民地 (colonies)」として占拠すると、綿花、サトウキビなどの「大規模農園 (plantation)」を経営し、その労働に奴隷 (slaves)を当てた。

 1508年 (室町時代後期)、「West Indies (西インド諸島)」に、最初の「Black slave trade cargoes (黒人奴隷貿易運搬船)」が到着すると、1880年代後期 (明治維新以降)に至るまで、ほとんど4世紀にわたって、UK, US, Spain, France, Holland, Denmarkなどの商人は、アフリカ大陸の西海岸から、まるで丸太でも運ぶように、船底に人間を鎖でつないで敷き詰めて運んでは、売り買いした。

 その奴隷の数は1,500万〜2,000万人と言われる。当時、Britain島の人口は約500万人。したがって、イギリス全国民の3〜4倍に相当するアフリカ系住民が、銃で脅されて奴隷にされ、異国の農場で、文字通り、馬車馬のように働かされたのだ。

 ところで、農業は「食」を生産する大事な産業。その農業を営むには肥沃な土(土壌)、清浄な水・空気が欠かせない。

 それにもかかわらず、河川は汚れ、大気汚染も深刻になった。その上、異常気象で害虫・病気が大発生し、ときに大雨が降っては、有機質に富んだ土壌の表層が洪水で流される。イギリスの農地にあっては、「土壌の健全度(health of soils)」が、年々低下し、いくらがんばっても、この数十年では、とても土壌の生産性の回復が望めないほど、「土壌劣化 (degradation of soils)」が進んだ。

 けれども、「Sustainable Soil Alliance (持続可能な土壌連盟 SSA)」が、情報公開法に基づいて手にした資料によると、UKの環境モニタリングの予算内容は以下の通りだった。

・水質(汚染)モニタリング:£60.5m(78億円)

・大気(汚染)モニタリング:£7.65m(9.8億円)

・土壌モニタリング:£0.284(0.366億円)

 つまり、「土壌の健全度」に関する国・国民の関心は薄く、農業生産の要(かなめ)となる土壌の検査に配分されている予算は、環境モニタリング全予算のわずか0.41%だったのだ。

 「The Department for Environment. Food and Rural Affairs (英国環境・食糧・農村地域省Defra)」は、土壌の健全度に関する指標を早急に策定し、全国の農地の土壌をモニタリングする計画があると、口では言うものの、「SSA」によると、今のところ、国がこれを実行する気配は、まったく見当たらないと嘆く。

おわりに:政治・経済界には、『野菜・果物、酪農品に穀物などは、安価に生産できる国から輸入すれば良い』と頑固に主張する人もいることはいるが、これは的外れだ。これまで、自国の耕作地を放棄し、農業を捨てて、まともに繁栄した国は存在しない。

 なお、「黒人奴隷」に関する歴史上の事実は、次の一冊に赤裸々に明記されている。

Daniel P. Mannix & Malcolm Cowley: Black Cargoes, A History of the Atlantic Slave Trade, Penguin Books, 1976

 (写真は添付のBBC Newsから引用)

www.bbc.com