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即効性の抗うつ薬「エスケタミン」:スプレー式点鼻薬がUSで認可 (BBC-News, Mar 6, 2019)

https://ichef.bbci.co.uk/news/834/cpsprodpb/238E/production/_105920190_hi052584429.jpg

 世界保健機関WHOによると、「うつ病(depression)」で苦しむ人は世界で約3億人。鬱はうつでも特にやっかいなのは、抗うつ薬が効かない「treatment-resistant depression (治療抵抗性うつ病)」。これに罹患する患者数は、USだけで推定740万人。普通の抗うつ薬が効かないため、「suicidal thoughts (自殺念慮)」にさいなまされる。

 WHOの統計では、15 - 29歳の若ものの死亡原因の第2位に自殺が位置する。なお、2017年、USで自殺で命を落とした人(自殺率)は、人口10万人当たり14人と、過去50年間で最悪を記録した。(ちなみに、日本では自殺率がUSの数倍高い地域も数多くある。)

 これまで、うつ病には、SSR抗うつ薬「Fluoxetine (プルオキセチン)」、商品名「Prozac (プロザック)」などが処方されて来た。しかし、この薬が1988年に世に出てから、それ以降のこの数十年間、画期的な抗うつ薬が開発されることはなかった。

 「Prozac」はじめ、従来型抗うつ薬のほとんどは、脳内の神経伝達物質「serotomin (セロトミン)」の濃度を高めて、神経細胞間の連絡をスムーズにし、うつ病の症状を緩和する作用がある。そのセロトミンは、気分、感情、睡眠のコントロールに深く関わる神経伝達物質だ。
 しかし、従来型の抗うつ薬は、服用しても直ぐに効果が現われることがなく、人によっては数週間あるいは数ヶ月も掛かることもある。もちろん、その間、ずっと、抗うつ薬を飲み続ける必要があった。

 そして、散々、副作用に悩まされたあげく、数年が経過して、ようやく投与した抗うつ薬が効かないと診断されると、精神科医は患者の耳元で、それとなくささやく。『電気ショック療法 (electroshock therapy) がありますよ。これで気分をスッキリさせませんか』と。けれども、この療法は「persistent memory loss (永続的記憶喪失)」、つまり、これまでの記憶が一瞬にして、永久に吹っ飛んでしまうリスクがある。
 多くのうつ病患者が、崖っぷちに追い立てられているのが現状だ。

 ところが、ここに来てようやく、これまでとは、まったく違う「抗うつ薬」が登場した。「Janssen Pharmaceutical Company (ヤンセン・ファーマ(株))」が開発した「Esketamine (エスケタミン)」、商品名「Spravato (スプラヴァート)」だ。
 この度、「The Food and Drug Administration (アメリカ食品・医療局FDA」の諮問委員会で、販売認可が下りたという。

 「Spravato」は「nasal spray (スプレー式点鼻薬)」。鼻腔内から血液に吸収されると、24時間以内に、患者の気分がスッキリする優れものだ。
 この薬は、「Prozac」と違って、脳内の神経伝達物質「glutamate (グルタミン酸塩)」に作用する。この神経伝達物質は学習、記憶、睡眠などに深く関与し、「normal brain function(正常な脳機能)」に重要な働きをしている。

 ただし、「Spravato」には副作用もある。自殺念慮や「dissociation (性格の解離)」を引き起こすこともある。したがって、この薬を使用した後、少なくとも 2時間は、患者の要観察が欠かせないという。
 専門家の間では、強い副作用が現われることに加えて、長期間使用した際の健康に与える影響が十分に調査されていないこと、薬物依存や脱法ドラグのリスクなどを危惧する声も挙がっている。

 そうは言っても、うつ病に苦しむ大勢の人を目の前にして、医者はただ手をこまねいて居るわけにはいかないだろう。うつ病の発症メカニズムが十分に解明され、その根本的な治療法が確立されるまで、藁(わら)にもすがりたい患者にとって、即効性があり、効果抜群の「Spravato」は「potential therapy (可能性の高い治療法)」に違いない。

 なお、この一文をまとめるに当たって、以下の優れた「The Guardian」の」記事も参照した。記して謝意を表したい。

The Guardian: March 5, 2019
FDA allows treatment of depression with club drug's cousin

                 (写真は添付のBBC Newsから引用)

www.bbc.com