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死語になった「正々堂々」:賞にこだわる選手の心と体がボロボロ! (BBC-Health, December 9, 2018)

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 「prizefighter (プライズファイター)」と言えば、賞金稼ぎのプロボクサーのことだが、その昔、古代ギリシャでは「prize fighters」を「athlete」と呼んだ。これが、今の「athlete(運動選手)」の語源に当たる。
 ちなみに、英語の「athlete」には、「運動選手(アスリート)」の他に、「筋骨隆々の人」、「陸上競技選手」の意味もある。

 さて、世界中の「athlete」に忘れ去られ、あるいは無視されて死語になった言葉に「sportsmanship」がある。その語義を「新明解国語辞典、第6番、三省堂、2005」は次のように定義する。

スポーツマンシップ:フェアプレーをし、勝負にこだわらない、明るい健康な態度・精神。

 今年は、日本のスポーツ界のラグビー、ボクシング、高校野球、高校女子陸上などで不祥事が相次いだ。そんな中で、フェアプレーができる選手、あるいはスポーツマンシップが、まだ残っているのかと、不思議に思っていたら、アメリカでは、とっくに、スポーツマンシップの意味が変わっていることに気づいた。

・Sportsmanship:the way an athlete behaves (good or bad).
[ (良きにつけ悪しきにつけ)アスリートがとる態度]
 典拠:Newbury House Dictionary, 5th ed., National Geographic Learning, 2014 

 確かに、「競技は勝たなければ意味がない」とし、常に「人に勝つことだけ」を考えて生きた運動選手が過去にいた。1928年の第9回オリンピックAmsterdam 大会の3段跳び競技で、日本初の金メダリストとなった織田幹雄 (1905-1998)だ。しかし、それは今から90年前のこと。いつまでも、それが正論と思い込んでいては、人類に進歩がない。

 多くの運動選手が、「何が何でも勝ちたい」病、「勝ちさえすれば」病に取り憑かれ、社会規範・ルール、マナーも、他人への迷惑も無視し、随分と我がままになった。問題は、運動選手だけに留まらず、それを取り巻く学校、父兄、自治体、医療関係者までに及び、取り巻きが、取り巻きの名声を欲しいがために運動選手やチーム監督の我がままを見て見ぬ振りをし、あるいは手を貸す。

 この12月12 日に発覚した高校女子駅伝選手に対する鉄剤注射事件。病気でもないのに、名声・実績が欲しい監督と悪徳医者が関わって、危険な薬剤を毎週のように女子選手に注射していた (読売新聞 [論点スペシャル]、2018.12.12, 12版, p.7)。
 運動選手が声を限りに叫ぶ「正々堂々」とは、中味が腐った「偽りのおたけび」に過ぎない。何とむなしいことか。

 なお、イギリスの運動選手、スポーツ界にも、「反省のとき」が到来した。
 選手が過度に「勝ち・賞」にこだわって、食事制限で無理に減量し、「苛酷なトレーニング (grueling training)」を続けるようになったのだ。これが行き過ぎると、どうなるか。まず、体はエネルギー不足に陥る。すなわち「Relative Energy Deficiency in Sport (相対的エネルギー不足 Red-S)」と呼ばれる症状だ。

" It's like when your phone's battery drops to a low level, it switches off lots of non-essential apps, this is what the body is doing."
[ スマホは、バッテリーが切れそうになると、大して重要でないアプリの多くを消去してしまう。これと同じことが人間の体で起こるのだ。]

 Northamptonshire (ノーサンプトンシャー) 出身の Mr Sam Woodfield (28歳)は、元「bodybuilder (ボディ・ビルダー)」であったが、「cyclist (サイクリスト)」に転向した。
 「Lighter means faster. (減量すれば、スピード・アップにつながる)」と信じて、体重を1年間で1/3にまで減らし、その一方で、ひたすら猛練習に励んだ。
 すると、生命維持に必要な体内脂肪 (visceral fat)をほとんど失い、エネルギー不足で階段を登ることさえできなくなった。おまけに睡眠が十分にとれなくなり、心の病(mental health)まで発症する。
 病院で診察を受けると、男性ホルモン「testosterone (テストステロン)」の分泌量も脊髄の「bone density (骨密度)」も、80歳の老人と同じレベルと告げられた。

 さらに、Berkshire (バークシャー) の都市Reading (レディング)出身の「marathon runner」Ms Anna Bonifaceも、Mr Woodfieldと同じように、体重を落とすと自己の記憶が伸びると信じたアスリート。
 国際マラソンレースに出場を重ねているうちに、体に異常を感じる。しかし、レースに勝ちたい一心で、食事制限に努めてスリムな体型を維持し、週に160km以上も走るトレーニングを続けた。

 そして 8年後。Ms Bonifaceはレース中に「ankle fracture (足関節骨折)」を起こす。病院で診察を受けると、「female athlete triad (女子アスリート三主徴)」を発症していることが分かった。すなわち

・Red-S:体の新陳代謝に利用可能なエネルギー不足
・amenorrhea:ホルモンバランスが崩れて無月経
・osteoporosis:骨粗鬆(しょう)症

 これでは、たとえ、選手がレースに勝っても、その代償は大きい。体も心もボロボロになっていたのだ。

むすび:スポーツ、教育あるいは政治にあって、「我」と「欲」に凝り固まり、「人に勝つことだけ」を最優先すると、どうなるか。人の道を失い、心が汚れ、肉体は壊れるだけだ。
                   (写真は添付のBBC Newsから引用)

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