夏の異常な日照りが続くのは、イギリス、フランス、ドイツをはじめ、その他のヨーロッパ各国も同じ。こんなに大地が乾燥すると、草原の草という草が枯れ、川や湖が干上がって、牛も羊も、そして農家も大弱りだ。みんな、これほど、雨を待ち焦がれたこともなかったことだ。
空が暗くなって稲妻が走り、雷がゴロゴロと轟き、大粒の雨がバラバラと降り出すのはいつのことだろう。
その雨が止むと、野山にはどこからともなく、土の臭いや草花の香りが漂ってくる。あれは、自然が、雨の潤いを得て、息を吹き返す証(あか)し。
「John Innes Centre」のMark Buttner教授によると、「雨上がり (After thunderstorms)」の特有の匂いは、次の4項目が一緒になったもの。
1.大地の匂いペトリコール (petrichor)
雨上がりに「土が発する匂い」をMs Isabel J. Bear & Mr Richard G. Thomasは、1964い年、科学雑誌「Nature」に発表した論文「Nature of Agrillaceous Odour (粘土の匂いの特性)」の中で、「petrichor (ペトリコール)」と呼んだ。
ギリシャ後の「stone」意味する「petri」と、ギリシャ神の血液を意味する (ichor)を1つにした造語だった。
その正体は、土壌菌の1種「Streptomyces (ストレプトマイセス属)」が雨に打たれて放つ有機化合物「geosmin (ゲオスミン)」。
多くの動物は、このゲオスミンに敏感だが、とりわけ人間の鼻は、土壌菌がつくり出す有機化合物に鋭敏で、その濃度が「ppb (0.001mg/kg)」、一説には「ppt (0.001mg/t)」のオーダーでも嗅ぎ分けることができるとされる。なお、ゲオスミンは有害な物質ではない。
しかし、人間は「petrichor (ペトリコール)」を香(かぐわ)しいと感じ、その芳香を香水成分に取り入れるまでに愛したが、なぜか、その味はひどいと感じてしまう。ゲオスミンがほんのわずかでもミネラル・ウォーターやワインに含まれると、とても飲めたものではなくなるという。その理由は、今もって不明。
2.植物の芳香成分テルペン (terpenes)
植物、葉っぱの毛の中で、芳香系の化学物質「terpenes (テルペン)」を生成する。どしゃ降りの雨で、この葉っぱの毛が壊れると、そこから大気中にテルペンが放出される。
同時に、乾き切っ植物の葉・茎や枝がどしゃ降りの雨で傷ついても、ハーブの枝を折ったときのように、揮発成分が放出される。
3.植物代謝の復活で芳香成分フェニルプロパノイド (phenylpropanoid)も放出
乾燥した天気が続いて、衰えていた植物が、雨が降って息を吹き返すと、「metabolism (代謝)」が活発になり、テルペン以外の芳香系化学物質も放出するようになる。
4.雷がつくるオゾン (ozone)
稲妻 (lightning)と放電 (electrical discharges)によってオゾン (ozone)が発生し、大気中には独特の塩素 (chlorine)に似た刺激臭のある、やや生臭ささが漂う。オゾン濃度が100ppb (o.1mg/kg)であっても、人間はオゾンの存在に気づくという。
いわゆる、稲妻が空中に光って雷が鳴り、大雨になると、大気中の塵・ほこりや煙・モヤなどのエアロゾル、その他の粒子状物質も全て洗い流されて、空気は澄み渡る。そんな時に、以上の4つの香り成分が加わると、人は、なんとすてきな雨上がりの匂いと感じてしまうのだ。
(写真は添付のBBC Newsから引用)