この宇宙で最も多く存在する原子は水素H (全体の75%を占める)。およそ138億年前に起こったビッグバンの、想像を絶するエネルギーから、宇宙で最も単純な構造を持ったこの原子(atoms)が誕生したとされる。
水素に次いで多い原子は不活性ガスのヘリウムで、3番目に多いのが酸素Oだ。酸素は、ビッグバンの後、宇宙が冷えて出現した星々の核融合反応 (fusion)で創られた原子だ。
宇宙で、この2つの原子が遭遇すると、水 (H2O) が生まれる。したがって、水は、地球上だけに存在する物質ではない。
しかし、水は水でも、原子レベルで違う「isomers (異性体)」の存在が知られていた。水素原子内の陽子1個と電子1個の構造に違いがあった。酸素に結合する 2つの水素原子とも、その「核スピン (nuclear spins)」の向きが同じ「ortho-water (オーソ・ウォーター)」と、核スピンの向きが互いに異なる「para-water (パラ・ウォーター)」があるというのだ。
ところが、2種類の H2Oを選り分けるのは、至難の業(わざ)だった。
Basel大学の Stefan Willitsch教授らの研究グループは、水を電界 (electric field)に通すことで分離することに成功した。さらに、この2種のH2Oを、超低温の「diazenylium(ジアジリニウム N2H+)」のと反応性で比較してみると、「para-water」の方が25%も反応が早く進むことを発見した。
なお、その実験結果は、コンピュータ・シミュレーションによっても裏付けられてたという。(研究の詳細は科学雑誌「Nature Communications」に発表。)
Willitsc教授は、この研究成果を化学反応の制御に役立てたい考えだ。
ただし、なぜ、水素原子の核スピンの向きが変化するのか、また、「ortho-water」と「para-water」の存在比率はどの位なのかについては、報告されていない。
宇宙の不思議は、まだまだ続く。
もっと、科学的な水について知りたい方には、次の一冊を薦める。
・ウェスト・マリン著、戸田裕之訳:水の神秘、河出書房新社2006
(写真はBBC Newsから引用)