認知症 (dementia)は、過去の記憶も自分も失う、悲しく恐ろしい病気だ。
"At the moment, there is no drug that can stop, reverse or even slow the progression of the disease."
[ 現在のところ、この病気の進行を食い止めることも、回復させることはおろか、進行を遅らせる薬さえ存在しない。]
ところが Copenhagen大学の Lars Vedel Kessing 教授らの研究グループは、デンマークの認知症の患者 73,731名、およびこの病気とは縁のないデンマーク人 733,653名からなる総計 80万人強の医療データを解析し、さらに国内の 151地域から採取した水道水中の「lithium (リチウム)」濃度を分析した。研究の目的は、認知症とリチウムとの「関連性 (association)」について調査すること。
リチウムは携帯電話・スマートフォンや電気自動車用のリチウム電池の原料として需要の高い金属元素。医療分野でも、躁と鬱を繰り返す「bipolar disorder (双極性障害)」の治療に使用されている。
その結果、水道水 (tap water) 中のリチウム濃度が 0.015ppm (15µg/L) 以上の高濃度地域の住民は、低濃度 (0.005ppm以下) の住民に比べて、認知症の発症リスクが17%も低いことが分かったという。
ただし、膨大なデータを解析した今回の研究では、「関連性」が認められたところで、両者の間の「Cause-and-effect (因果関係)」が医学的に証明されたことにはならない。
Edinburgh大学の Tara Spires-Jones 教授によると、
"There could be other environmental factors in the area that could be influencing dementia risk."
[ (リチウム濃度の高い地域では)他の何らかの環境ファクターが働いて、認知症の発症リスクに影響しているとも考えられる。]
そうは言っても、「藁(わら)にも縋(すが)りたい」認知症の患者あるいは研究者にとっては、朗報であることに間違いない。今後、認知症の治療を模索する上で「intriguing result (興味深い結果)」となった。
(写真は添付のBBC Newsから引用。)