夜な夜な海の底から聞こえる「うめくような、なき声」。あれは何か。下水ポンプのうなりにも似る。いや、あれは軍の演習の音だろう。違う違う、あれはきっと「宇宙人ET(extraterrestrials)」が来ているのだ。
こんな噂がカリフォルニアのハウスボートで暮らす住人の間で広がった。1980年代のことだ。
その不気味な「うめき」をみごと、解明したのは、Yale大学 Andrew Bass 教授の研究室。研究結果は「Current Biology」に発表された。
さて、東の空を朝日が染めると、小鳥は目覚め、歌を歌い出す。人間も同じように目が覚める。これは「概日リズム (circadian rhythm)」を刻む「体内時計 (internal clock)」が光に反応し、睡眠ホルモンの「メラトニン (melatonin)」の分泌を抑制するためだ。
ところが、同じ脊椎動物 (vertebrate species) でありながら、小鳥や人間とは、全く逆に、メラトニンが増えると目を覚まし、恋の歌を歌い始める動物がいた。実は、それが、夜の「うめき声」の正体だった。その名は「Midshipman fish (イサリビガマアンコウ)」。日本語では、長くて、なんとも厳(いか)つい名前が付く。ただし、啼くのは「territorial males (縄張りをもつオス)」だけ。
"Midshipman got their name because the luminescent 'photophores' reminded early observers of the buttons on a naval academy midshipman's uniform."
[ 英語名 Midshipman (士官候補生) という名前がついたのは、昔の人が、その魚の頭部に光る蛍光発光器を観て、英国海軍兵学校 士官候補生の制服に光るボタンを連想したためだという。]
この「士官候補生」たちが、なぜ夜に啼くのか。どうやら、夜の方が、メスにラブコール (courtship song) が届きやすく、敵に見つかり難いためではないかと考えられている。
脳の松果腺 (conarium) から分泌されるメラトニンは、「sleep-wake cycles (睡眠覚醒サイクル)」、「birdsong (小鳥の鳴き声)」の他にも、生物の「reproduction (繁殖活動)」までコントロールしていたことになる。
(写真は添付のBBC Newsから引用。)