野生のウサギ:どこに消えたか (BBC-Earth, July 29, 2015)
「たいへんだ、たいへんだ、ひどく遅れてしまう」
"Oh, dear! Oh, dear! I shall be too late."
アリス(Alice)がお姉さんと一緒に川の土手に座っていると、スーツを着込んだウサギが、慌てて、そこを走り抜ける。有名なルイス・キャロル作「ふしぎの国のアリス(Alice in Wonderland)」の一場面だ。ここに登場するウサギはアナウサギ(European rabbit)。この本が出版された1865年の頃、イギリスでは野外で、ごく普通にアナウサギを目にすることができたようだ。
ウサギの繁殖力は昔から恐れられてきた。なにしろ、生後3~4ケ月で大人になり、妊娠一月足らずで5匹も子供を産む。この調子で産んでは増え、それが繰り返される。世間では、これを揶揄(やゆ)した。
"Rabbits breed like rabbits."
[ウサギはウサギのように「産めや増やせで」数増やす。]
しかし、イギリスEast Anglia大学で動物学(zoology)を研究するDr Diana Bellの意見は違う。研究室では大学の敷地内で1980年代からアナウサギの生態調査を進めている。その結果によると、メス一匹が1年間で産む子供の数は1~10匹の範囲。意外に少ないと言う。巷(ちまた)のうわさ(reputation)とは大違いだ。
アナウサギの繁殖(reproductive output)は、日照時間(day length)、気温(temperature)、確保できるエサの量(availability of food)によって大きく左右される。そのため、生息地が違うと、当然、その繁殖状況も異なってくる。オーストラリアやニュージーランドに生息するアナウサギのメス一匹が1年間に産む子供の数は7。これは、アメリカに比べて2倍以上に当たる値だ
Dr Diana Bellが、今、最も懸念しているのは、イベリア半島(Iberian Peninsula)のアナウサギ。このアナウサギのたどった運命は悲惨だ。1950年代、アナウサギの繁殖力を恐れた人間が、意図的(deliberately)に粘液腫病(myxomatosis)をイベリア半島へ持ち込み、これを蔓延させた。さらに、運の悪いことに、出血病(rabbit haemorrhagic disease)が大流行し、その後、生息環境の破壊(habitat destruction)、狩猟(hunting)が追い打ちを掛ける。さすがのアナウサギもこれで95%も個体数が減少し、準絶滅危惧種(near threatened)となった。
アナウサギが地上から姿を消すと、どうなるか。
自然界(living world)は、互いに支え合い、「もちつ、もたれつ」で生きている。最も絶滅が危ぶまれている(the most critically endangered)イベリアオオヤマネネコ(Iberian lynx)、イベリアカタシロワシ(Spanish imperial eagle)にとって、アナウサギは生き抜くために欠かせないエサだ。一つの生物種が絶えることは、これに依存し、生きている種の絶滅につながる。それが、やがて、めぐり、巡って、・・・。
自然界の種をコントロールしようとする人間。しかし、人間には、しょせん、荷が重すぎることだ。
(写真は添付のBBC Newsから引用)