野生ラン(orchid)は美しい。遠くから離れて見ても、近づいて、ときに虫めがねで、その花の色、形を細かく観察しても、造形のみごとさには、驚くばかりだ。
「orchid」は、古代ギリシャ人がその球根の形から名付けた「orkhis」に由来する。英語の「testicles」と同じ意味。
さて、イギリスで野生ランの生態調査が進められている。活動の主体を担うのは、「野生ラン観察会(Orchid Observers」。これは、「イギリス・アイルランド植物学会(Botanical Society of Britain and Ireland)」とOxford大学の市民科学プラットフォーム「Zooniverse」が共同で運営に当たる組織だ。一般市民も参加できる。
この組織の当初の設立目的は、「イギリスに生息する野生ラン29種が、温暖化や環境変化によって、どのような影響を受けているか」について調査すること。
このプロジェクト市民メンバーは、各自、野山に出かけ、野生ランの生息域や開花時期の情報を、専門家のもとに送る。また、「Orchid Observers」では、種の特定(identifying)と情報の書き込み(annotating)作業を進め、「ロンドン自然史博物館(The Natural History Museum in London)が保管する植物記録の更新に努める。
これまでの調査から、「Early Purple Orchid」と「Green-winged Orchid(ピラミダル・オーキッド)」の開花は、博物館記録よりも10日以上早まっていることが確認されている。また、「Green-winged Orchid」や「White Helleborine(ヘレボルス)」のように、生息域が記録情報と違っていた野生ランもある。
生物界(living world)は環境変化に晒されると、生息地や開花時期を変えて、これに対応する。自然史博物館の上級学芸員で、このプロジェクトのリーダーDr Mark Spencerは、次のように述べる。
「野生ランに限らず植物は、多くの生物(昆虫など)に依存して生息しているが、気候や環境の変化に、みな同じように、同じペースで対応しているとは考えにくい。その点を明らかにすることが、研究の主要テーマだ。」
"A major concern is that certain species that are dependent on others may not be responding in the same manner or at the same pace."
野生ランの生態を詳細に調査し、これを記録することは、今後の植物相(flora)の移り変わりを予測する上でも、極めて大切な仕事だ。
(写真は添付のBBC Newsから引用)