夜ぐっすり寝て、朝は快適に目覚め、日中、喜気とした気分で仕事ができる。おなかが空いては食事をとり、夕方、家族と談笑し、適度に疲れて眠りに就く。
誰もが願う理想的な1日の生活スタイルだ。しかし思うように行かないのが、世の常。
狭い国土の日本と比べて、22倍の国土面積を有するオーストラリアでは、さぞかし、生活スタイルもゆったりしているのかと思いきや、意外にも、多くの国民が仕事に疲れ、精神的にボロボロになっている様子が、研究調査で明らかになった。
オーストラリア職場保健協会(Workplace Health Association Australia, WHAA)の協力を得て、調査したのは、オーストラリアWollongong大学。この調査では、都市、地方の別なく、WHAAに所属する銀行(banking)、金融(finance)、法律(legal)、運輸(transport)、貯蔵・保管(storage)の5分野の業界から、過去10年分の職場保健環境データを提供してもらい、これを分析した。
その結果、調査の対象となった約30,000人のおよそ65.1%が、中度ないし高度のストレスレベル、また全体の41%が危険な精神的苦痛(psychological distress)レベルの不健全メンタルヘルス状態(poor mental health)で仕事に就いていることが浮き彫りになった。
オーストラリア人は、一般に、1日の労働時間も通勤時間も長いとされる。このせいで、趣味・スポーツで気分転換する時間を見失い、運動不足に陥っているという。
働き過ぎと運動不足、それにファーストフードの食べ過ぎは、全て肥満を招く、いわゆる肥満要因(obesogenic environment)だ。
なお、不健全なメンタルヘルスの状態で、長時間仕事を続けても、その能率および企業の生産性は上がらない。WHAAでは、生産性を妨げるリスク・ファクター(risk factor)として、次の6点を上げる。
・高血圧(high blood pressure)
・高コレステロール(high cholesterol)
・運動不足(physical inactivity)
・精神的苦痛(psychological distress)
・喫煙(smoking)
・肥満(obesity)
一つのリスク・ファクターにつき2.4%の生産性を失うという。したがって、従業員に上記の4点のリスク・ファクターが認められるとすれば、企業の生産性は約10%も減少することになる。
結論は、ワーク・ライフ バランス(work-life balance)に行き着く。企業が、積極的に、「仕事と生活の調和を進めることが大事」と従業員に諭すべし(preach the gospel)とか。
記事はこれで終わる。
しかし、「言うは易(やす)し」、「そんなことは誰でも知っている」。官僚的なかけ声(bureaucratic work)だけでは、危険な(at risk)までに追い込まれて苦悩する人を救えない。
今、沖で溺れかかっている人がいる。そして、必死で助けを求めている。これを見て,岸辺で「ワーク・ライフ バランス」と、何のことやら誰も理解できない呪文を唱えているだけでは,溺れる人は救えないのだ。