ヒト属「Homo」は進化の過程で失ったものも多い。仲間を慈 (いつく)しむ心を失い、ケガの治癒力も細胞の再生力も、他の脊椎動物に比べてはるかに劣るようになった。
ヒトは、怠けがちで、二十歳 (はたち)を過ぎたばかりだというのに、歩くのも面倒だと言うヒトが少なくない。
それに引き替え、熱帯魚の水槽の中で、常に、元気よく泳ぎ回る魚がいる。体長5cmほどで全身に濃紺色の縦縞が入ったインド原産の観賞魚。模様が「zebras (シマウマ)」に似ることから「zebrafish (ゼブラフィッシュ)」と呼ばれる。
Edinburgh大学の Dr Thomas Beckerらの研究グループは、この「zebrafish」に特殊な能力があることを発見した。脳の神経細胞が、常にピカピカの「フレッシュ」状態に保たれているのだ。(研究結果の詳細は、医学雑誌「The Journal of Neuroscience」に発表。)
この離れ業 (わざ)は、同じ脊椎動物でありながら、ヒトには、到底できない芸当。それに、なぜか、ヒトの脳神経細胞は脆(もろ)い。
さて、「Parkinson's disease (パーキンソン病)」は、脳内の神経伝達物質「dopamine (ドーパミン)」をつくる神経細胞「dopamine neurons (ドーパミン神経)」が破壊される病気。この細胞が死滅あるいはダメージを受けると、「dopamine」がつくれなくなり、体の運動機能に支障が現われる。一度失われた神経細胞は、二度と修復されることも、再生されることもない。現代医学では、その修復治療は無理だ。
ところが、「zebrafish」の脳は、ヒトの脳とは全く別だった。
人類の祖先が数百万年前に、とっくに失っていた「脳神経細胞の修復機能」を持っていたのだ。「zebrafish」の脳の中には、修復に特化した「dedicated stem cells (専用の幹細胞)」があり、これを使って、常に、古いドーパミン神経を新しい神経細胞に置き換える。このため、頭がボケることなどあり得ない。この離れ業のヒントは、その特殊な「immune system (免疫システム)」にあることも分かったという。
Dr Beckerらは、ゼブラフィッシュが保有する、このドーパミン神経細胞の再生メカニズムの解明がパーキンソン病の治療につながるものと期待している。
(写真は添付のBBC Newsから引用)